約 935,885 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5120.html
(これでも三訂版) ・サイレントヒルとのクロスオーバー。グロ描写注意。 「これ、返す」 「おう、やったのか」 有希がキョンに何かのゲームソフトを渡すのが見えた。有希もゲームをするのね、ちょっと意外。どんなのかしら。 「それ、何?」 「ああ、零だよ」 キョンがソフトをこちらに見せた。いかにもなパッケージをしているところからするとホラーゲームみたい。あたしが好きなジャンルではないみたい。 「お前はこういうのが好きじゃないみたいだな」 キョンがそう言ったのでびっくりした。 「な、なんで分かったのよ」 「期待して損した、みたいな表情をしてたからな」 そんな表情してたのかしら……。こいつ時々鋭いから困ったものだわ。 「で、有希、それをやってみてどうだった?」 「人間の想像力は……恐ろしい」 いつもより小さな声でそういうと俯いてしまった。 「どうしたのよ有希。まさか、怖かったの?」 「違う」 即答だった。必死さを感じたのは気のせいかしら。 「そんなことはない。決してトイレに行くことが出来なくなったり、布団に潜ったまま翌朝まで身動き出来なくなった訳ではない」 有希……全部言ってどうするの……。 「貸しておいて何だが……スマン」 「いい」 やがて古泉君やみくるちゃんがやってきた。古泉君がそのソフトの箱を見るなり言った。 「まさか貴方がそのような分野のを持っているとは思いませんでした」 「興味本位でな。あの怖いCMがちょっときになってな」 すぐにどんなのか判ったってことは古泉君もやったことあるのかしら。ちょっと内容が気になるけど……怖いのよね。 「そんなの怖くてできないです……」 そう呟いたみくるちゃんに同意せざるを得ないわ。 「キョンってどんなジャンルのゲームをするの? まさかそんなのしかないとか言わないでしょうね」 「さすがにそれはねーよ。妹もいるんだしな、パーティゲームとか大衆向けのももそれなりにあるぞ」 「ふーん、じゃあ週末はキョンの家でゲーム大会ね」 「え、ん、まあいいが」 「じゃ決定ね。ということだからみんなよろしく!」 その後、有希は読者を再開していたし、古泉君はキョンとチェスを始め、みくるちゃんは紅茶を選んでいた。 あたしは特に何をするということもなく、適当に検索して開いたページ眺めてた。 さっきの零とかいうソフトについて調べないのかって? 冗談じゃないわ、あんなアブノーマルなのあたしには向いてないもの。 「あ、あれ……?」 気が付くと、あたしは真っ暗な駅のホームに立っていた。 何で? さっきまで部室にいた筈なのに。 慌てて辺りを見回すけれど、ホームどころか駅の周辺からも人の気配が全然しない。 「どうなってるのかしら」 ホ-ムを改めて見回してみる。見たくなかったけれど。 蛍光灯だけが照らしている構内は随分と汚くて、柱なんて赤錆でボロボロになっている。地面のコンクリートが赤いのもそのせいよ。 そのせいよね……。 ここはどこの駅なのかしら。全く見覚えがない。外に明かりはなく、この駅以外は永遠に続きそうな真っ暗闇しかない。 一体何が起こったのかさっぱり分からない。あたしは一歩も動けずに 「いやああああああああああああああああああああ!!!」 その突然の叫び声にあまりに驚いたあたしは、一瞬呼吸を忘れてしまった。 「何!? 何なの!? さっきの悲鳴は何なのよ!?」 パニック寸前のあたしは一刻も早くここから出ようと、改札口へ走った。自分の荒い息遣いと壁に反響した足音だけが聞こえる。 周りを見ている余裕なんてなかった。後で思うと、見なくて正解だったかもね。 恐怖からの逃避を図ったその先で、あたしは地獄を見た。心臓が縮み上がった。全身から血の気が引く音がした。 改札口の辺りは血痕だらけになっていた。床も壁も天井も……、一体何をすればこんなに飛び散るのだろう……。 そして改札機のそばには何かが 「……みくるちゃん!?」 どうして? どうしてこんなことになってるの!? 血まみれになって倒れているみくるちゃんはあたしの声に気付いてこっちを見た。 「みくるちゃん! 何があったの!? しっかりして!」 「涼宮さん…………逃げて下さい…………。この世界は…………もう…………」 「何言ってるの!? みくるちゃん! 」 「……じ………く…………」 「 !」 「………………………」 もうみくるちゃんが何を言ったか聞き取れなかったし、自分が何を言ったかさえ覚えていなかった。 「 !」 「」 「」 「」 「」 「 「 「 「おい、ハルヒ? ハルヒ?」 あたしは気付くと、机に突っ伏して寝ていたみたいだった。額は汗でびっしょりになっていた。 ゆ、夢? そうよね、あんなこと現実にはあり得ないもの…………。 「どんな夢を見てたんだ? 随分と苦しそうだったが、大丈夫か?」 キョンはまだ呼吸の整っていないあたしを心配しているみたい。 視線を移すと、心配そうにこちらを覗くみくるちゃんが見えた。ちゃんとメイド服を来てるし、勿論血なんてついてない。 あたしは立ち上がると、何か話しているキョンを無視してふらふらとした足取りでみくるちゃんに近付いた。みくるちゃんは少し驚いた表情をしていたけどね。そんなのどうだっていいわ、さっきのが夢だっていう証拠が欲しかったから。 「みくるちゃん、何も起こってない……よね……?」 「え? は、はい、いつも通りですよ」 あたしはみくるちゃんに抱きついて泣いていた。 「す、涼宮さん?」 「ちょっと……怖い夢を見ちゃったから……。うん、大丈夫よ……」 みくるちゃんは、優しくあたしを撫でてくれた。ちょっと恥ずかしかったから、悪夢を見たのをキョンのせいにして解散した。 家に帰ってからは、一晩中なんだか怖かった。それはもうキョンから借りたゲームの所為で動けなくなった有希といい勝負だったかもしれない。 けど、何も起こらなかったし、あの夢も見なかった。 でも、翌朝にそれは起こった。 あの悪夢はただの夢だったことにほっとして、何時ものように学校に向かっていたあたしは、突然目眩に襲われて倒れた。 気がつくと、ほほにアスファルトの感触がある。その場に倒れたままだった。 「ったく……誰も助けてくれないなんて薄情な……」 ここは一通りの多い通学路なのに、人の気配が一切なかった。 そして辺りは真っ白な霧で覆われていて、5メートル先も見えない状態だった。 「え? なに……これ……」 何より不安を誘うのが、全くと言っていいほどに音が無いことだった。 音がしないなんて雪が降った日みたいだけど、今は凄く不気味に感じる。 無響室に入れられた人は不安感を抱くとかいう実験について聞いたことがあるけど、今のあたしはそれに近い環境下におかれているのかもしれない。 ここは毎日通る道なのに、どう進めばいいか分からない。電柱とか、特徴がある家とか、そういった目印を探しつつ学校へ向かった。もう家を出てしまった以上、学校に行った方が安全だと思ったから。 そうして何とか進んでいた時、私は不意に足を止めた。 白い霧の中に、ぼんやりと影が見える。その形からして、路上に誰か倒れているようにしか見えなかった。 あの時のよく似た状況の記憶が頭を埋め尽くす。 嫌、見たくない…………。 それでも、あたしには前に進むしかなかった。 重い足取りでも、確実にそれに近づいていた。 やがて霧の中から見えてきたのは、血溜まりに倒れているキョンだった。 「……え…?」 今回は夢じゃない。体を流れる血が冷たく感じた。 「嘘……でしょ……?」 キョンを揺さぶっても、全然反応しない。手も首も、だらんと重力に負けたまま……。 「嘘って……、言ってよ……ねえ!」 あたしの両手が真っ赤になっていた。キョンはおびただしい量の血を流して、温かさを失っていた。 「どうすればいいの……!」 救急車を呼ぼうと思い立って、慌てて震える手で携帯を取り出した。 「……どうして?」 圏外という赤い二文字が画面に表示されていた。助けは来ない、あたしにも助けられない。 キョンは死んでしまった? これはみくるちゃんの時と同じ「夢」……よね……? でも、このべっとりとした嫌な感触や、鉄の臭いは…… ………… ………… あたしは狂ったように泣き叫んだ。声が裏返り、しわがれても構わずに叫び続けた。 「…………!」 あたしは泣くのをやめた。 足音が聞こえた。しかもそれが段々と近づいていた。 「だ、誰……誰なの!?」 あたしは虚空に向かって叫んだ。虚勢でも張っていないとおかしくなってしまいそうだった。 すると、返事が聞こえた。 「涼宮さん!?」 あの声は、古泉君! 良かった……。 霧の中から姿を現したのは間違いなく古泉君だった。 「涼宮さ…………」 古泉君はキョンの亡骸を見て言葉を失った。 「これは……」 「あたしが来た時には、もう……」 「朝比奈さんに続いてまさか彼が……」 その言葉にはっとした。 「みくるちゃんも!? どういうことなの?」 「朝比奈さんは、先日、駅の改札口で」 「何ですって!?」 古泉君の話していた内容は、あの時の夢と全く同じだった。 あたしは頭を抱えた。ひどく混乱していた。信じたくないことばかりがぐちゃぐちゃになって頭の中を掻きまわしていた。 どういうことなの? あれは夢じゃなかったの? 「このままでは、この世界は……終わってしまいます」 それは、みくるちゃんと同じ台詞だった。 『この世界は…………もう…………』 「古泉君、この世界って何なの? 何でみんな殺されたの? この世界はどうなっちゃうの!?」 あたしが古泉君に掴みかかっていたその時、後ろから声がした。 「あら、揃ったのね」 振り向いたけど霧しか見えない。 「誰よ!」 「あら、名前なんて言わなくても分かるでしょ?」 霧の中から、うっすらと影が見えてきた。 「彼を殺したのはあたしよ。話を面白くするには良い演出でしょ?」 笑っているような口調だった。 「ふざけるな!」 あたしはそいつに向かって怒鳴った。 「ふざけてはないったら。彼もあの子も必要な犠牲なんだから」 まさか、みくるちゃんもこいつが……。そう判断した瞬間、自分自身でも驚く程の激しい憎しみという感情を抱いていた。 「良いわねぇ……、良いわその表情……。あたしを殺したいの? 出来るかしら?」 あたしは呼吸が荒くなっているのが分かっていたけれど、それを抑えることはしなかった。 「悔しいのなら、学校で待ってるからいらっしゃい。面白いものを見せてあげるから」 そう言って、そいつは霧の中に消えた。 キョン…… そいつが消えた頃にあたしはようやく落ち着いた。古泉君が霧で真っ白の世界を見回しながら呟いた。 「僕自身も、裏世界にいるのは初めてなんですが……。この霧の世界……、まさにサイレントヒルですね」 「それって……あたし達はホラーゲームの世界に放り込まれたってこと? 冗談じゃないわ!」 本当に冗談じゃなかった。ホラーの世界が現実になったら……とてもじゃないけど、主人公みたいに生き残れる自信なんて……。 「しかし、このままでは何も進展しません。ここで敵の襲撃を受ければ助かる見込みはありません」 あたしは決意した。キョンの仇を取らなきゃ。 「……分かったわ、あたし達が主人公になってやろうじゃないの。主人公は不死身なんだからね」 あたしは別の世界の涼宮ハルヒだと説明すると、古泉君はあっさりと理解してくれた。 なんで不思議に思わないのだろう……。 古泉君によると、この世界のあたしは数日前に失踪してしまっている。それ以来、裏世界と呼ばれるおぞましい空間が発生し、そこで殺人事件が起こっているらしい。 その犠牲者はキョンやみくるちゃんを含めて20人を超え……。 そして、今いるのがその裏世界。惨劇の舞台に、あたし達はいる。 「つまり、狙われてるってこと?」 そう思いたくなかったけど、そう思わざるを得なかった。 あたし達はあの女のいる学校へ向かうことにした。 何かが襲ってこないか不安だったけども、静寂を破るようなことは起こらなかった。 どれくらいの時間が掛ったのだろう、霧の中を歩いて、ようやく学校に着いた。 でも、古泉君は入るのを躊躇っていた。 「どうしたの?」 「裏世界の詳細をご存知ですか?」 「どんな世界なの?」 「その世界の建物の内部はとても凄惨なことになっています。最もおぞましいと言われる程だそうです。覚悟をしないと、精神的に参ってしまいます」 あたしは頷いて学校へと入った。 覚悟はしていたつもりだった。 でも、古泉君が言っていた通り、入った瞬間に食道がケイレンを起こした。 「ぅ…………」 あの時の駅より酷い、酷過ぎる。 「大丈夫ですか?」 何もかもが赤錆と血飛沫でどす黒い赤色になっていた。血の臭いがする……。この学校のあらゆる場所で殺し合いがあったような状態だった。 「ええ。なんとかね……」 蛍光灯は全部割れていて、外の霧が唯一の明かりになっていた。 「かなりの邪念を感じますが……、とりあえず、進みましょう」 「ええ、そうするしかないわね……」 昇降口 まず、自分の上靴の場所を調べる。 履き替えるつもりなんて勿論無い。血でこんなに汚いんだから、土足でも構わないだろうし。 二度と触りたくないくらいに汚い上履き以外は、変わった物は入っていなかった。 「おや、これは心強いですね」 古泉君が見つけたのは、ショットガンだった。弾も幾つか見つけたみたいだった。 古泉君は、弾をポケットに入れると、その一つを装填して構えた。手慣れたように見えたのはどうしてだろう。 「頼れる武器があると、やはり落ち着きます」 こんな物騒なものを手にして落ち着くなんておかしいけど、今は命の危険に晒されているのだから、古泉君が正しいと思う。 「この世界がゲームと同じなら、武器はいろいろと見つかる筈ですね」 なるほど、だから学校にそんなものが置いてあるのね。 あたしも何か役に立ちそうなアイテムはないかと見回すと、傘立てに傘に混じって何かが立ててあった。 手に取ると、日本刀だった。鞘に紐がついていたので、それを腰に巻いて結んだ。 「いいものを見つけたみたいですね」 ショットガンを持った古泉君が言った。 「僕も近接武器が欲しいですね。ショットガンには弾に限りがありますから。銃身で殴るには少々重たいですし」 ズズッ…… その時何かの音がした。 「おやおや、歓迎でも来たようですね」 勿論そのままの意味でないことは知ってる。敵でしょ。 廊下で何かが動いていた。 それが這ってこちらに来ている。だんだんとその姿がはっきりと見えてきた。 ゾンビというのかは分からないけど、人の形をした血まみれの気持ち悪い生き物が近付いていた。 「涼宮さん、下がって下さい」 「いえ、その必要はないわ……」 あたしは刀を鞘から引き抜いて、銀色に輝く刃を見つめた。 決心したんだもの、あたしはキョンの仇を討つまでは……いえ、討っても死ねない! 「弾はもしもの時の為にとっときなさい!」 あたしは目の前の敵に向かって走った。 あたしの姿を認めるとそいつは何やら呻いていたけれど、そんなの気にせずに素早く背後に周りこんで、これでもかという位に斬りつけた。 背中から血を噴き出してもがいていたけど、蹴りを一発お見舞いしたら動かなくなった。 「す、凄いですね涼宮さん」 古泉君の視線で、あたしは大量の返り血を浴びていた事に気付いた。それを見たから、古泉君は少し驚いたのだろう。 「この調子ならノーダメージでいけそうね」 「では、行きましょうか」 1F 薄暗い廊下を歩いて行く。目的地は分からないけど、学校のどこかにアイツはいるから順番に回っていけばいつか見つかるだろうし。 古泉君が腕を組んで壁とにらめっこをしていた。 「これは……困りました。ここには手洗い場があったはずなんですが」 確かに、ここにはトイレがあった筈なのに、真っ赤で気味の悪い壁しかない。 「どういうこと……?」 「特に仕掛けもないようですし、配置が変えられていると考えるのが一番かと」 配置が変えられているだけじゃなかった。とても学校とは思えないくらいに廊下が入り組んでいた。 「なによこれ、迷子になっちゃいそう」 迷宮のような廊下を真っ直ぐ進んで行くと、机と椅子が山のように重なっていて行く手を阻んでいた。 「」 「これはどかしようがありません。仕方ありませんので、引き返しま……」 振り返った時に、あたし達は硬直した。 おぞましい生き物が天井からぶら下がってこちらを見ていた。 さっきのとは形が少し違う。天井から人間の上半身が生えているようだった。 あたしは思わず叫んだ。そして、 「よくも脅かしてくれたわね……!!」 冷静さを失っていた。 刀でこれでもかと言う程に斬りつけた。 「涼宮さん……落ち着いて下さい!」 古泉君があたしを止めた時には、その生き物は原形を止めない程になっていた。 説明してほしい? 簡単にいえば乱切りよ。それ以上は言いたくないから。 あたしは肩で息をしていた。なんでこんなにムキになっていたのだろう。 「冷静になることも必要ですよ。体力も消耗しますし」 古泉君は少し怯えた表情であたしを見ていた。自分の言動で逆上されることを恐れているようだった。 なんだか腫れ物に触るような扱いに感じて悲しくなった。 行き止まりから引き返す途中、あたしのクラスの教室を見つけた。 「何で気付かなかったのかしら」 ちょっと期待してたけど、中に入るとあたしの席もキョンの席も、やっぱり血がべっとりとついていた。 キョンの机の中から何かがはみ出ていた。出してみると箱があり、その中に拳銃と幾つかの弾倉が入っていた。 「何でわざわざ箱に入れてあるのかしら」 疑問に思いながらも拳銃をポケットにしまった。 「おや、これはこれは」 「どうしたの?」 古泉君が掃除用具入れから鉄パイプを見つけていた。 「手頃な武器が見つかりました」 感触を確かめるようにパイプを振っていた。 「ねぇ、おかしいと思わない?」 古泉君は表情を引き締めた。 「ええ、確かに招き入れた割に大した罠もなく、かつこれだけ武器が用意してあるというのは少々不自然です」 「だとすると、この世界にあたし達の味方がいるのかしら」 「そうとも考えられます。しかし過度の期待は禁物です。このように武器を提供するので精一杯なのかもしれませんから」 2F 階段を上ったところでいきなり現れた巨大化したゴキブリみたいな虫の大群に対し、古泉君の鉄パイプが早速活躍した。 古泉君が何とかしてくれていなかったら、あたしは卒倒してたかもしれない。想像してごらんなさい、でっかいゴキブリが顔めがけて飛んできてかじりつこうとしてくるのよ。生きた心地がしないわ。 虫の大群はいまや抜け殻の山となっていた。それを蹴散らして廊下を進み、部屋を確認していく。 「……あった!」 こんな所に部室があった。SOS団と書かれた紙に希望が膨らむ。 でも、扉をあけて中に入るとやはり酷い有り様だった。 「うわ……」 本が棚から崩れ落ちたままの状態で埃をかぶり、みくるちゃんの衣装までもが血で染まっていた。 だけどそんな中で唯一、パソコンだけが血を浴びずに綺麗なままだった。 それには二人ともほぼ同時に気付いた。 「古泉君、あのパソコン」 「何かヒントがありそうですね」 「やっぱり味方がいるって考えで正解みたい。よかった」 スイッチを押すと、黒い画面に文章が現れた。 『このメッセージは条件を満たすと表示されるものであり。そちらとの疎通は出来ない』 あらかじめ用意されたプログラムってことかしら。 『裏世界と呼ばれるその空間は現実から隔離されている別の世界』 これは古泉君から聞いたから知っている、でも、その後に表示された一文にあたし達は首をかしげた。 『しかし、神がその世界を支配すれば、その世界が現実となる』 ……つまり、この気持ち悪い世界が現実と入れ替わるってこと? 冗談じゃないわ。 それより、気になる単語があった。 「神とは何のことでしょうか……」 「少なくとも、良い神じゃなさそうね」 パソコンは神ついて詳細を述べることは無かった。でも、そいつにこの空間を支配されたらおしまいってのは分かった。 『クリーチャーは貴方達の憎悪や恐怖が実体化したもの。冷静さを保てば遭遇する頻度は下がると予測される』 つまり、あたしがもっと冷静になれば厄介な敵は現れなくなるってこと? 「ごめんね古泉君、こっからはもっと落ち着いて行動できるように気をつけるわ」 「いえいえ、謝らなくて結構ですよ」 *** 朝学校に来ると、ハルヒがいなかった。珍しく遅刻をしているようだ。 あくびをしながらその空席を見ながら座った時だった。 喜緑さんが教室にやって来た。そして真っすぐに俺のところに歩いてくる。喜緑さんが俺に用があるということは何かでっかい事件があったということだろうか。 「涼宮さんが登校途中で倒れて病院に運ばれました。これは緊急事態です」 いきなりのことに、俺は仰天した。 「なんだって……?」 俺は机上に置いたばかりのカバンを再び持つと、喜緑さんと一緒に教室を出た。授業? サボりというやつだな。 外で朝比奈さんが待っていた。 「キョン君……涼宮さんが……」 「喜緑さんから聞きました。早く病院に行きましょう」 「こちらに来てください」 喜緑さんに手招きされて近づいた瞬間、世界が一変した。 「へ?」 「ん?」 いつの間にか病院の前に立っていた。空間移動をしたらしい。 って古泉はいないが置いて来たとかそういうことはないですよね。 「既に病室にいます。詳しい話は皆さんが揃ってからに」 病室に入ると、ベッドでハルヒが眠っていた。その傍で古泉が待っていた。 「待ってましたよ」 「ハルヒは一体どうしたんだ」 「目撃者の話では、歩いていて突然全身の力が抜けたように倒れたそうです。その原因は……」 「それは私が説明します」 喜緑さんが割って入った。そんなに難しく深刻な話なのだろうか。心配になってきた。 「現在、涼宮さんの精神は抜き取られて別の世界に閉じ込められているようです」 別の世界って……。 「その空間に干渉しているところですが、情報改変が殆ど出来ていません。彼女にヒントや武器を与えることが精一杯です」 武器? どういうことだ、そんなに危険な世界なのか。 「簡単に言うと、サイレントヒルの裏世界、という表現が貴方がたには一番分かりやすいと思います」 「ぇぇっ?」 隣で朝比奈さんが俺以上に驚愕していた。朝比奈さんも知ってるんですか? 「はい、ホラーゲームの初期作の一つとして有名ですから……。でも、あんなゲームの世界に閉じ込められるなんて……」 そこで朝比奈さんがハッとした表情を見せた。 「もしかして昨日の……!」 「昨日ハルヒがうなされてた悪夢のことですか?」 「はい、それが何なの予兆だったのかもしれないです」 「そんなことがあったのですか。やはり狙われていたようですね」 喜緑さんの言う『狙われていた』というのはどういうことなのだろうか。 「閉じ込められている目的は何なのですか」 喜緑さんは古泉の質問に一切のタイムラグなく回答した。 「彼女を閉じ込めた相手はあくまで本気のようで、ゲームの様に楽しませる積もりは毛頭ないようです。相手の目的は、彼女を生け贄にして神を生み出し、その力で裏世界を現実と入れ替えることと推測されます」 生け贄……? おいおいまてよ。 それって、つまり……。 このままじゃハルヒが殺されるのか!? 「なんとかして助けられないんですか!?」 「何度も裏世界の改変を試みましたが成功していません。また相手の正体は不明で、神がどのような力を持つかも推測に過ぎません」 「そういえば、長門さんはどうしたんですか?」 朝比奈さんの一言で思い出した、長門がいない。なんでこんな時にいないんだ。 「長門さんは……隣の病室にいます」 なんだって? 「彼女は裏世界への侵入を試み、現在涼宮さんを捜索中です」 *** 涼宮ハルヒの精神が隔離された空間への侵入を試みたところ、突然「目眩」という症状を起こし、気付くと学校にいた。 しかしそれは全く似て非なるものであった。配置が著しく変えられた校舎内はどこも血痕だらけで、とても禍々しい光景だった。 ここに涼宮ハルヒがいる。 ……おかしい、統合思念体との連絡がとれないので現在の状況すら把握出来ず、おまけに情報操作が全く行えない。 有機生命体の五感を頼る他ないようだ。 前方に何かがいた。 *** 3F 階段を登り終えたときから古泉君の様子がおかしい。 さっきから落ち着きがないし、まるで風邪を引いたみたいに震えて呼吸も荒い。 「古泉君、大丈……」 思わず後ずさりしてしまった。 古泉君の腕が、ところどころカビのように黒くなっているのが見えた。 「こ、古泉君?」 もう、古泉君は古泉君ではなくなっていた。 「亜阿あああぁ唖あああああああああ!!」 古泉君は意味不明な言葉を叫ぶと持っていた鉄パイプであたしを殴りにかかった。 あたしはなんとか避けたけど、古泉君はまだあたしを狙っていた。 走って逃げたけど、向こうも走ってくる、逃げるのは無理みたい。 振りかぶった隙に鉄パイプを奪い取ることには成功したけど、古泉君は素手での攻撃を止めない。何度も何度も掴み掛ろうとする。 「ちょっと…………やめ……て……」 「ぁぁぁぁぁぁぁ………………あはははははは……!」 古泉君があたしの首を締めようとしてくる。あたしはポケットから拳銃を取り出した。古泉君を突き飛ばしてその隙に距離をおき、構えた。 「ごめんなさい!」 拳銃の弾は、古泉君の頭を貫いた。糸が切れた操り人形のように倒れ、もう動かなかった。 「古泉君……何で……?」 なんでさっきまで味方だったのに突然こうなったの? しばらくして落ち着きを取り戻してから、古泉君の服のポケットからショットガンの弾を取り出す。 その時、何かが光っているのが見えた。古泉君の首に紐に通された鍵がかかっていた。 鍵には「体育館」と書いてある小さな紙が貼ってあった。 *** 痛い……? 寂しい……? 怖い……? 様々なエラーが発生し、私は歩みを止めた。 理解不能、私にはそのような「感情」など……。 では、どうして呼吸が乱れている? どうして過度に背後を警戒する? どうして前進を躊躇う? どうして? それらの自問に答える事が出来なかった。 幾度となく殲滅させた筈のクリーチャーが再び現れた。彼らは執拗に私を喰らおうとやってくる。 それに対して、箒を分解して金属製のパイプのみにしたものを応急的な武器としているが、簡単に折れてしまいもう箒の残りは少ない。持久戦になればこちらの劣勢は明らか。 早急に新たな戦法を練らなければならない、そう思った時だった。 机の上に、いつの間にか機関銃が置いてあるのが視界に入った。 それを手に取った瞬間、メッセージを受信した。 『私達に出来るのはこれ位だけど、これで思いっきりやっちゃいなさい!』 「朝倉涼子……」 統合思念体の干渉はこれが精一杯のようだ。しかし……、 「充分」 私はその機関銃を手にすると、向かってくるクリ―チャ―を飛び越えて走った。 この裏世界はゲームではない。 たとえチートと言われようと構わない。 あらゆる手段を尽くして、この世界を終わらせる。 *** しばらく目を閉じていた喜緑さんが目を開けた。 「裏世界の観測が可能になりました」 待ちに待った知らせだった。ここに来て数時間ずっと気になっていたことをぶつける。 「ハルヒは、長門はどうなってるんですか!?」 「現在は二人共に大丈夫のようです。しかし、裏世界ではキョンさん、古泉さん、朝比奈さんは死んでいます」 「なんだって……?」 「あくまでもあの空間は仮想のものであり、そっくりにコピーしたものです。しかし、世界が入れ替わった場合はそれが現実となり、その時にはあなた方は消えてしまいます」 俺達三人は固まってしまった。 十数秒たってから、その静寂を破るように、朝比奈さんが消えそうな声で言った。 「消えちゃうんですか……」 「……くぅっ……」 ハルヒがまた苦しそうな声をを漏らした。 自分に何もしてやれないことに腹が立つ。俺達はハルヒに触れることすら許されない。接触すると相手に何かされる懸念があると言う。 目の前で苦しそうに顔を歪めながら眠っているハルヒを見てやることしか出来ない。 頼む、頼むから、無事に目覚めてくれ……。 俺達には祈ることしか出来なかった。 *** 体育館 「やっと来たのね」 古泉君の持っていた鍵で扉をあけると、体育館で待っていたのは予想通りアイツだった。 ここも照明は機能してないけど、霧がわずかな明かりとなってアイツの顔を照らしていた。 ここに来るまでに、アイツの正体はなんとなく分かっていた。 アイツの声は聞いたことがなかった。何故なら、それが自分の声だったから。 「アンタがこの世界のあたしなの?」 「そう、だったら何?」 「何でこんな事をしたの」 「この世界は唯のコピー、いつかは消される運命にある。それが気に入らないの。だから神の力でこの世界と貴方の世界を入れ替えてこの世界を本物にするの。みんな、神を生み出すのに必要な犠牲だったのよ」 神……? 「紹介するね、これがこの世界の神よ」 暗くて気付かなかったけど、アイツの隣に巨大な化け物がいた。 あたしが想像する神は、宗教とかそんなの抜きでももっと綺麗なものだった。 けど、目の前に現れた神は、とても神とは呼べないものだった。 5メートルはあろう神だという生物は、人の形はしているがひどく痩せていて、やはり血まみれだった。 「神は絶対的な存在よ、全てを支配するの。だから、人間は神にはなれないの」 アイツが話を区切る度に静まり返る体育館。「神」がこちらを見ている。その視線を受けたあたしは一歩も動くことが出来なかった。 「この神はまだまだ未熟だから、憎悪という感情が足りないの、だから貴方が神に必要な生け贄に選ばれた。そんな貴方がちょっとでも強力になってもらう為にあの男を殺したの」 あたしの怒りを増すためだけにキョンを殺したなんて……。 でもあたしは何も言えなかった。それに対して怒れば相手の思うつぼだし、こんな魔物の生け贄に選ばれたことがショックだった。 「神に逆らうことは許さない。例えあたしでもね」 突然、「神」はアイツを手にとり、じっくりと舐めるように眺めていた。 「あら、神は貴方よりあたしを先に欲しいみたいね」 「な、何言ってるの? アンタも殺されるのよ」 「いいえ、光栄なことよ。神のヴィクティムになるのだから……」 神は我慢できなくなったのか、突然そいつをまるでスナック菓子のように喰らいついた。 アイツの身体が噛み切られて……。これ以上言わせないで。 「う……わ……………………」 あたしはとっさに目を瞑り、耳を押さえた。それでも骨の砕けるような嫌な音が響いていた。 しばらくして音がなくなった。 どうやら食事が終わったらしいので目を開けるた。「神」は血をぼたぼたと垂らしながらあたしを見ている。 次に喰われるのはあたし。 アイツへの復讐は出来なかった。でも、この「神」とやらをなんとかしないと、この世界は終わらない。あたしは、ショットガンを構えた。 「くたばりなさい!!」 引金を引いた瞬間、強い衝撃で肩に痛みが走った。 あたしのような体格では、反動の大きなショットガンは身体に負担がかかることは百も承知。 でも、これは遠距離からでもダメージを与えられる数少ない武器だから、それくらいは我慢。 肩の痛みを堪え、次々と弾をこめては頭を狙って撃ち続けた。 ダメージがあったのか、「神」は呻き声を上げている。 「やったかしら」 油断してしまった。次の瞬間、その長い腕でなぎ払ってきた。 避けようとすることすらできなかったあたしの身体は宙に浮き、十数メートル飛ばされて叩きつけられた。 何とかして立ち上がったけれど、全身が打撲で痛い。ショットガンもどこかに飛んでいってしまった。こんなに暗い中ではすぐには見つからないから諦めるしかない。 「いっ……たいじゃない………………!」 あたしはふらつきながらも再び「神」と向き合い、拳銃を撃ちながらショットガンを探した。 でも「神」は怯むことなく迫ってきて、またその腕に弾き飛ばされた。 「ぅう……」 床に叩きつけられたときに頭を強く打ってしまい、立ち上がることが出来なくなっていた。 拳銃も暗闇の中に消えてしまった。 近づいてくる「神」から逃げようと痛む四肢を必死に動かして床を這ったけど、すぐに追いつかれてしまった。 あたしはとうとう「神」の手で押さえ付けられてしまった。腰には日本刀があるけど、激しい痛みで手が動かなくなっていた。 血でべとべとの「神」の手に圧縮される気分は最悪だった。 苦しい、息が出来ない。こんな化物に食べられるなんて……。 「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 叫んでもここには誰もいないから無駄なことは知ってる。けども、最後までこいつに抗っていたかった。 その時、「神」の荒い呼吸に混じって、誰かの足音が聞こえてきた。 「させない」 ……有希!? 銃声が絶え間なく響いていた。「神」はたまらず悲鳴を上げてのけぞり、あたしはなんとか手から解放されたた。 視界が開けて、音のする方向を見ると有希がマシンガンを撃ち続けているのが見えた。 何十発撃っただろう、「神」は遂に倒れた。それでも有希は「神」が完全に動かなくなるまで攻撃をやめなかった。 マシンガンの音が止む。そして、ガシャンという大きな音を立てて床に落とした。 そしてこっちに駆け寄って、あたしの身体を支えて立たせてくれた。 「涼宮ハルヒ」 「有希……、ありがと」 「いい、私も……一人で心細かった……」 あたしと有希は抱き合ったまま、静かに泣いた。 窓から眩しい光が射している。霧が晴れて、青空が見えた。 外に出ると、校舎は相変わらずだったけど、空気はよどみがなく透き通っていた。 太陽が眩しい。あたしと有希は、その光に包まれていった。 *** 涼宮さんが目を覚ましたようです。 状況説明が困難な為、長門さんが隣の病室にいることは涼宮さんには内緒になっています。 「…………」 涼宮さんと同時に目覚めた長門さんは、ぼんやりと自分の手を見つめていました。 「どうしました?」 「大量のエラーが発生している。身体の制御すら上手く出来ない」 彼女の手は震えていました。 「もう大丈夫ですよ」 私はそっと彼女を抱き締めました。彼女は私に顔を埋めていました。おそらく、泣いていたのだと思います。あくまでも推測ですよ。 数分間そのままでいましたが、長門さんが離れました。 「エラーの削除が完了した」 「では、そろそろ涼宮さんの所へ行きましょう。貴方は涼宮さんにプリンを買いに行ったことになっています」 「……分かった」 「では、情報操作を始めますね」 その時、彼女が小さな声でありがとうと言いました。少し恥ずかしそうでしたね。 情報操作により、私以外は今回の事件についての記憶を失い、長門さんは涼宮さんの見舞いに来たことになりました。これは、トラウマと呼ばれる精神状態に陥らない為の救済措置です。 さあ、私はこの病院にはもう用はないので学校に戻りますね。 それでは失礼します。 inspired SILENT HILL 3 おまけ 長門有希がビビりプレーヤーだったら 痛い……? 寂しい……? 怖い……? 様々なエラーが発生し、私は歩みを止めた。 それらのエラーを言語化するならば……、 「帰りたい……」 いっつも助けてくれるパパ(統合思念体)との連絡がとれないから、一人でなんとかするしかない。 でも、この間キョン君に借りたゲームをしたばっかりだから怖さ倍増なの……。 どうしよう、有希泣きそうだよ……。 「こわいよパパ……」 あー来る、こういう所絶対何か来る。ドッキリ要素というものが絶対ある。 こういう時は……、歌を歌おう。 「ある~はれ~たひ~のこt」 ガッシャーン! 突然ドアを突き破ってクリーチャー登場。 「POOOOOOOOOOO! ふっざけんにゃよ! もーやだ! 無理! 終了! 終了!」 私は走りながら思い切り泣いた。いいもん、誰も見てないから……。 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁんパパァァァァァァァァ~~!!」 MISSION FAILED... おまけ 2 あのEnd マシンガンの音が止む。そして、ガシャンという大きな音を立てて床に落とした。 そしてこっちに駆け寄って、あたしの身体を支えて立たせてくれた。 「涼宮ハルヒ」 「有希……、ありがと」 「いい、私も……一人で心細かった……」 あたしと有希は抱き合ったまま、静かに泣いた。 突然、窓から眩しい光が射した。 「なにあれ!?」 空中に浮かぶ複数の円盤、それは……、 ま さ に U F O 「有希! UFOよUFO! これは調査しなきゃSOS団の名が廃るわ! あたし達の活動を全世界に広められるチャンスよ!」 あたし達は外に出た。グラウンドに着地していたUFOは合計三機。中から出てきたのは、期待通りの宇宙人! 「ユ、ユニーク(タコさんウインナー……)」 「ねえあなたたち! どこから来たの?」 「 %*#\$@=-@!」 「な、何言ってるのかサッパリね……」 「意思疎通は困難と思われる(おいしそう……)」 「+ |\ ; *// #!」 宇宙人が取り出したのは、光線銃? ビビビビビビビビビ いきなり有希が撃たれて倒れた。有希は痺れて動けない様子だった。 「………………ユニー……ク…………(一口だけでもかじってみたかった……)」 「有希ー! 有希ー! ユニークとか言ってる場合じゃないわよ! アンタ達! 何するのよ!」 「 *#/(^^) $/-!」 すると今度はあたしに光線銃を向けた。 「な、何よ! やめなさ……いやあああああああああああああ!!」 そして動けなくなったあたし達はUFOに乗せられて…… ユニーク(笑)
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1084.html
第三章 ハルヒを家まで送り、新川さんに駅まで戻っていただいた。 空は暗く、星が出始める。 忘れてた愛車にまたがり、家路を急いでいた時、道の端に人が倒れていた。 俺は善人ではないので無視した。今日も星が綺麗だ。 「待て。怪我人を無視とはいい度胸だ。」 そんな言葉をほざく元気があるなら、大丈夫なのだろうが、優しい俺は親切に反応してあげた。 「おぉ、大丈夫か?酷い怪我だ。救急車呼ぶか?」 よく見ると、本当に酷い怪我だった。ズボンが擦り切れて、足も擦り傷で真っ赤だ。 顔を見ると、額から血も出てる。しかしこの顔どこかで見た。 「お前は!?俺と朝比奈さんの邪魔をし、今日も朝に戯言をほざいた奴ッ!!」 「今頃気付くな。早速だがお前にこれを渡す。大事にしろ。」 そいつは俺に銀色のギザギザを渡した。 「何コレ。もしや『禁則事項です』か?」 「残念。それに見せ掛けた御守りだ。」 紛らわしい。何の為に渡したのだろうか。 「これは、お前が『禁則事項』の時『禁則事項』な事をする有り難い『禁則事項』な品だ。」 よくわからないです。 「とりあえず救急車呼ぶぞ。」 「いや、大丈夫だ。1人でなんとかする。呼ばなくていい。」 「だが断る。」 俺は救急車を呼び、そいつを殴って気絶させ、病院送りにした。 そういえば、何であいつ怪我してたんだろうな。どうでもいっか。 家に帰り、御守りを開けた。罰当たり?知るか。これが御守りなワケない。 中には基盤みたいな物が入っていた。どうやら携帯のminiSDにぴったりなので、入れてみた。 当然、使用出来なかった。 翌々日 谷口は学校に来なかった。ハルヒは何事もないかのように普通だった。 放課後古泉が、「谷口君は精神状態が昔から不安定だったそうです。」などと言っていた。 ハルヒは、「そうなの?今まで気付かなかったわ。」と素っ気なかった。 今日は全員で帰る。ハルヒは先頭で朝比奈さんと談笑。 長門はその脇で黙々と歩く。俺と古泉はその後ろだ。不意に古泉が耳打ちする。 「現在、谷口君は機関で預かってます。会いに行きますか?」 「いや、いい。」 今はまだ適切ではない。事が収まってからの方が良いかも知れん。 「そうですか。」 「そういえばナイフはどうした?あの時は逆上して忘れてたが。」 「それがですね………無くしました。」 俺はてっきり機関で回収してるものだと思っていたので驚いた。 「あの後丹念に探したのですが、見つかりませんでした。」 「……ってことは?」 「誰かが拾った可能性があります。」 これ以上ハルヒのせいで死人が出るのも本当に申し訳ない。 「急げ古泉。機関を総動員させろ。」 「言われなくともやってます。あなたこそ、彼女を落ち着かせる行動をとって頂ければいいのですがね。」 古泉は軽蔑と呆れが混じった目つきで睨んできた。そんな目で見るな。 一週間後 ハルヒはめっきり大人しくなった。俺はもう安心だろうと思う。 古泉も「最近の死亡者の中に、例のナイフ関連の被害者はいませんでした。」と言っていた。 そういえば、古泉がかなりやつれていたけど、どうしたんだろうね。 ハルヒは呪いのナイフなんか忘れてる。 いや、もしかしたら谷口の一件で、ナイフ恐怖症になったのかも知れない。 実に愉快。谷口には感謝しなくてはいけないな。 しかし、まだ谷口は学校に来ていない。そろそろ会いに行きますか。 鼻歌混じりで帰る自分に気付き、かなり恥ずかしかった。 翌日 終わった。 母さん、俺は今日が人生ラストデーになるかも知れません。いままで有難う。 朝、げた箱に手紙が入っていた。 生憎、俺は手紙と相性が悪く、高校に入り手紙で良い思いをした事は無い。 内容は、『午後5時あなたの教室で待ちます。』だとさ。 綺麗な文字だというより、はっきりとした読みやすい文字だった。達筆には変わりない。 どこかで見た字体。行くべきか、行かぬべきか。少し悩む。 教室に入り、自分の席に着くと既にハルヒがいたので挨拶をした。 「よう。」 ハルヒは外を見たままだった。思わず目の前で手をひらつかせた。 「あら、いたの?」 「どうした。不眠症で朝ボケか?」 「あぁー今日ねー、部活、休みね。」 「悩み事でもあるのか?あるなら言ってもいいんだぞ。」 「まーそのうち言うんじゃない?」 ハルヒは一日中こんな感じだった。 放課後部室に行くと長門がいた。 「今日は部活無しだとよ。」 「知っている。」 「じゃあ、何でいるんだ?」 「あなたは?」 「俺か………ヤボ用だ。」 「……わたしもヤボ用。彼女も。」 「彼女?」 「キョン君。」 「朝比奈さん……」 朝比奈さんはいつもと様子が違っていた。何故かは知らんが、俺は少し恐怖を感じる。 「これからこの世界の左右を分ける大きな別れ道が生じます。 キョン君なら既に分かっているかもしれません。」 俺の死神が笑っているらしいな。もうすぐ魂が手に入ると。 「どうでしょう?涼宮さんを制御出来るのはキョン君だけです。 これまで未来の固定化が出来たのもキョン君のおかげです。」 「だけど、俺の死は規定事項なんですよね。」 朝比奈さんは一瞬、意を突かれた表情になるが、直ぐに首をふるふると振った。 「それが規定事項であろうが無かろうが『鍵』であるキョン君は『扉』である涼宮さんの開閉が出来ます。 つまり涼宮さんをコントロール出来るのは、キョン君だけなの。 悪く言えば、キョン君はこの世界の支配者です。動かして下さい。未来を在るべき姿へ。 わたしは一時的に未来に避難します。 次に会う時は、あなたと涼宮さんが作った未来の朝比奈みくるです。 規定事項なんて夢幻に過ぎないの。それだけ未来が在るから。 本来なら未来人が現代人に関わるべきではなかった。知らなければ良かったの。全て。」 朝比奈さんは言い尽くしたようにふぅっと息を吐く。 「そろそろ時間です。行って下さい。」 逃げちゃだめ? 「ここで逃げでも、必ずその時は来る。逃避不可能。あなたに賭ける。」 「長門……分かった頑張って行ってくる。」 俺は教室へ向かう。決着をつける為に。 着いた。携帯を見ると時間ピッタシだった。 俺はゆっくりとドアを開ける。 「遅い。罰金ね。」 夕日がそいつを明るく照らし、俺は冷や汗を流す。 手元にはナイフ。全てはシナリオ通りという事か。 「どうしたの?そんなに恐い顔して。」 それはお互い様だろ お前だって顔が強張ってるぞ。せっかくの笑顔が台無しだな…… 「そうね…」 偽りの笑顔が解け、うつむく。かなり可愛い顔だが、俺は気にくわん。 ハルヒらしくない。俺はお前の笑顔が……あれ?何言ってんだ俺。 「今から独り言を言うわ。軽く聞きなさい。」 「どうぞ、お気に召すままに。」 「前に言ったでしょ。信頼出来る人を殺すのはどんな気持ちかって。 やっぱり苦しいよ。そんな気持ち。殺るよりなら自分がやられた方がマシ。 でも………もう遅い。だから逃げて!!」 「ふざけんな。独り言だろ。俺に振るな。」 「ふざけてるのはどっちよ!!あんた死にたいの!?」 死にたい訳ない。 「じゃあ早く逃げなさいよ!!」 「だが断る。」 「なんで………なんでなのよ。」 ハルヒの目が潤んでいるのが分かる。今にも溢れそうだ。 まぁこいつの気持ちが分からんでもないが、俺はここで逃げ出す訳にもいかない。 「この俺が最も好きな事のひとつは、自分が強いと思っている奴に「NO」と断ってやる事だ。 それに、前に言ったろ、好きな奴の隣で死ねるなら幸せ者だって。」 「……っバカ!!」 ハルヒが走って来る。ナイフを持ちながら、俺の心臓めがけ。 避けきれない。死を覚悟した。 人間は死を覚悟したり、極限状態に陥ると、スローモーションに世界が見えるという話は本当である。 反射的に携帯を持った手が動く。 ナイフは俺の携帯とキーホルダーに当たる。 しかし、ハルヒの力は思いの外強く、携帯は弾かれる。今度こそ終わりだ。 「ごふっ……うぐぅぅ。」 鈍い音と共にうめき声が聴こえる。俺じゃない。俺はここに立っている。ってことはハルヒしかいない。 ハルヒは目の前でうずくまっている。 「な、長門!?」 無情な瞳が俺を見る。 「何故この様な事を?」 ナイフが手に刺さってるぞ。 「質問に答えて欲しい。あなたは私の助けがなかったら約98.801%の確率で死亡していた。 あなたは逃げるべきだった。逃げていたらあなたの死亡していた確率は、約23.333%」 逃げても意外と高い。某野球ゲームでは、危険域である。 「あなた達有機生命体は生への執着が異常に強い。だが、あなたは逃げなかった。何故?」 心のどっかで分かってたような気がした。もしかしたら助かるのかもしれない。 いつものようにお前が来て助けてくれると思ってたのかもしれん。 「それは?」 無表情が少し緩む気がした。 「信用?」 「……信頼かな。」 「どう違うの?」 「さぁ、どう違うんだろうか。」 「………あまり頼らない方が良い。わたしは、常にあなたの期待には添えれない。」 「そうだな。俺は今まで長門に甘えすぎた。感謝しなきゃな。なんか礼でもするよ。」 長門は手に刺さったナイフを抜き、血が流れる手をもう片方の手で抑える。 「……それなら今度、晩御飯を御馳走して欲しい。」 長門にしては、何と人間くさい言葉だろうと、驚いた。 「いいのか?そんなもんで。」 「いい。」 「そうか。」 「そう。」 ハルヒはすやすやと眠って(気絶して?)いた。 「わたしの拳からナノマシンを注入した。暫くは起きない。」 これは酷い。 「これで全て終わったのか?」 「根本的な解決には至ってない。」 長門は俺がこの言葉を発することを知っていたかのように即答した。 「今からあなたと涼宮ハルヒの脳波を利用し、精神を同期させ、仮想現実空間でのメンタルケアを行う。」 言ってることがよく分からないのですが。 長門はしばらく黙り、ふと思いついたような目つきで俺を見直した。 「夢。あなたは彼女の夢に入る。そこであなたは彼女の精神を安定させる。」 つまり、俺がハルヒの精神科医になるという話らしい。 「事態は一刻を争う。 現在彼女は錯乱状態。瞬時に時空間を改変してもおかしくない状況。今すぐ行って欲しい。」 俺にそんなテレパシー能力が有るはず無い。 「出来る。あなたは手段を持っている。」 どこに? 「携帯電話。」 はっとした。もしかしたら、あの未来人が渡した変な基盤じゃないか?俺は急いでそれを取り出す。 「そう。それはあなた達有機生命体が将来、意思疎通をするための基本理念。それを利用する。」 よく分からないから早くやってくれ。 「ひとつ注意する。今回は、あなたの脳波を彼女に送る。 それは彼女の脳に伝わるり、仮想現実空間へ入るが。 あなたは閉鎖空間のように感じるが、危険性が極めて高い。そこは、彼女の願望が暴走する場所。 そこは、涼宮ハルヒの思念を反映し易い状況である。 もし、そこであなたが閉じ込められたり、死亡すると、あなたの精神自体が幽閉、もしくは、死亡する。 タイムリミットは通常約2時間。しかし、ナノマシンの効果で3時間の延長が可能。 それを過ぎたら、私が直接抑えるが長続きはしない。せいぜい、30分程度。」 何やら相当危険そうだ。俺が困惑していると、 「大丈夫。頃合を見計らってわたしも行く。」 「分かった。じゃあ行こうか。」 俺は基盤を長門に渡したら、長門は拳を握り、 「あなたにも眠ってもらう。」 なんですと!?なんでいつもの咬むタイプにしないの? 「その方が効果的と聞いた。」 誰だよ。 「古泉一樹。」 次会ったら必ず殺す。 「彼から伝言を預k」 「要らない。」 「だが断る。『あなた達の体は僕が責任を持って預かります。ぼ く が。』」 次の瞬間。長門の拳が飛んでくる。 「ちょ、おまっ………アッー!!」 腹に痛みが走り、薄れゆく意識の中で走馬灯が駆ける事は一切なく、ふと思う。 ナノマシンじゃない。コークスクリューだ。 第四章へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4631.html
次の日、金曜日。 昨日は色々な問題が無遠慮に俺へと押し寄せ、また、古泉とケンカじみたもんまでやっちまったがために、俺も閉鎖空間を作り出してしまいそうだと思わんばかりのグレーな気持ちで帰宅することとなった。 帰ってからの俺の気分はハッキリ言って北校に入学して以来最悪な状態を記録していたが、やっぱりトンデモ空間などは発生していなかったようなので、つくづく自分は普通の普遍的一般的男子高校生だと思い知る。 しかし普通の高校生はそんなこと考えんだろうとも思い、そうやって俺は己の奇異さにも気づいたのである。 そして今朝の登校の際には、今度はブルーな気持ちを抱いていた。 一年前にも俺はこの長く続く坂道を憂鬱な気分で歩いていたが、それはこの理不尽に長い通学路に対し学生が交通費支給デモという意味不明な行動を起こし、そしてその理不尽な要求が通ってもおかしくないほど強制労働的であるがゆえだった。 もちろん、今は違う。では何故ブルーだったのか。 それは、今日の俺の心の中は鬱々前線真っ盛りで人的災害警報が発令中であり、本日は晴天にもかかわらず、所によりハルヒの矢のような叱咤が降り注ぐでしょうという予報も出ていたからだ。 どんな人的災害に注意が必要なのかといえば、ナイフを持った女子高校生通り魔との遭遇によって刺殺されないようにせよということである。それが予報であるのは、まだ《あの日》に行くと決まったわけではないからに他ならない。俺も長門も、是非免れたい危機である。昨日のそう遅くない夜、長門に電話をしてみたもののコール音しか返事をしなかったのも気に掛かるんだ。やはり……あいつの感情の部分は強くなっているのだろうか。何度も電話をかけるような無粋なことはしなかったが。 そしてハルヒの叱咤の雨が降るとされた場所は学校の教室で、その局所的な矢の雨が降り注ぐ地点はもっと詳しく予報されていた。そこはあいつが座っている席の前……つまり俺の席だ。正直、これは間違いないと感じていた。なんせ、その現象が起きる原因とされたのは俺なのだから。 とは言うものの、その大元の原因を作ったのは何を隠そうハルヒ自身なのだが。 そう。俺は今週の頭、編集長へとジョブチェンジしたハルヒ団長殿に磔にされて「恋のポエム書け!」という無茶な命令を受け、そして俺はその任務を今日も完遂出来なかったために、ハルヒは今度こそ俺を視線や苦言やらで射殺さんとするだろうというこれは不可避の人的災害だと予想されたのだ。このときは。 教室に着いた俺にハルヒは一言ポエム作成の進行状況を聞き、歯を食いしばって目をギュッとつむった俺に意外にも、 「……そう。期日が迫ってるから、明日の不思議探索は機関紙の制作にまわそうかと考えてたんだけど」 と、危険な不思議探索をやらずにいられるならポエムを書いたほうが良いのかなと俺に思わせるようなことを言い、 「うん、書けないってんならしょうがないわ。じゃあ、明日の探索は、気合入れて不思議ちゃんを探しに行くわよ!」 そして決心させた。探索の対象が単なる自称異星人で実際は奇人ちゃん程度ならどれだけ良いか(会いたくはないが)と俺が思っていると、ハルヒは続けて、 「そろそろ本当にSOS団結成一周年なんだもん。このまま何も見つけられずにその日を迎えたんじゃ、この団の創立目的が忘却の彼方に追いやられちゃうかんね!」 その目的を達成したがために異世界は忘却の憂き目に遭遇しているんだぞとは言えず、俺は、今こそSOS団が不思議発見を断固否とするべく再結集するときなのだなとおもんばかっていた。 だが、この時点での俺はまだ気付いていなかった。既にハルヒの周りでは、渦を巻いて事態が錯綜していたことを。 昨日の災難はまさに俺たちが問題の渦中に放り込まれたというだけで、こいつが静かであるのは、ただ、台風の中心は不気味に静かだということだったんだ。 以前の俺は、あいつらに勝手にやってろなどと言ったこともあったが……今は違う。 この一年、俺はハルヒたちに散々な目に合わされ、自分の生き方が大きく変わってきた。 だが、振り返ればわかる。 これはもちろん、散々楽しいことを俺たちSOS団が行ってきた結果、俺の世界が大いに盛りあがったということだ。 だからというわけじゃない。俺は当然のこととして、今回の問題にぶつかることとなる。 それが動き出したのは、午前の部の中休みの谷口と国木田との会話からだったのだろう。 そして、この事件の中心人物は二人いる。 一人はもちろんのこと、そしてもう一方は当たり前であった。お気づきだろうが、あえて名前を呼ばせて頂く。それは――、 ハルヒ。 長門。 ……事件は、俺の予想斜め上で降りかかる。 なあ、教えてくれないか? お前たちの願いってのは……一体なんなんだ? 第七章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3905.html
超能力者。 涼宮ハルヒによって、閉鎖空間と神人を倒すための力を与えられた存在。機関と呼ばれるハルヒの情報爆発以降に発足した組織に属し、 その意向、つまり世界の安定に協力している。 三つほど前の世界では、その目的は変わらず「世界の安定」だったが、情報統合思念体が排除行動に出たため、 手段を「ハルヒの安定」から「ハルヒとその影響下にある人間の排除」へと変化させ、ついにはそのために核爆弾を炸裂させた。 でリセット。 未来人。 涼宮ハルヒによって、時間遡行能力を与えられた存在。組織名やそれが一体いつの時代のものなのかは不明。 目的は自分たちの未来への道筋を作り続ける涼宮ハルヒの保全。そのためには別の未来を生み出しかねない存在は かたっぱしから抹消している。 それが原因で二つほど前の世界では、ハルヒの観察を命じられた朝比奈みくるという愛らしいエージェントがその役割を 押しつけられ、結果目も当てられない惨劇が次々と演じられていった。 んで、その過程でハルヒの能力自覚がばれて情報統合思念体の排除行動が始まったためリセット。 宇宙人。 唯一、ハルヒが関わらない形で存在している。その名称は情報統合思念体。基本的な目的を自律進化の可能性を秘める 涼宮ハルヒの観測にする一方、能力を自覚してしまった場合は地球ごと抹消することにしているようだ。 その監視には対有機生命体コンタクト用インターフェースと呼ばれる人造人間を送り込み、近い距離からのハルヒの観測を行っている。 前回の世界では、そのインターフェースの一人、長門有希と俺が文芸部活動に没頭した結果、彼女が一人の少女になろうと その任務を放棄し人間になる決断の末、情報統合思念体をハルヒの力を使って抹殺しようと試みたため、 長門は初期化されてしまった。同時に長門は俺との文芸活動の過程で、ハルヒの力の自覚を知っていながら隠していたため、 初期化の際にその情報が情報統合思念体にも渡り、排除行動が開始された。 それでリセット。 これが今まで俺とハルヒが歩いてきた軌跡だ。 はっきり言って全部バッドエンド。まあ、ハッピーエンドならリセットなんて起きず、平穏無事な世界が続き 今頃俺は自分の世界に帰ってSOS団の活動に没頭しているだろうが。 しかし、その過程で得られたものは無駄なものは無かった。情報統合思念体と超能力者と未来人の微妙な関係が 世界の安定に大きく貢献している事実が得られたんだからな。ただ、おまけとして、俺の世界が絶妙なバランスで 成り立っているのかという事実も突きつけられた。そこにあって当然だと思っていたから。まさか、同じにならずとも 安定させるだけでこれだけの苦労をさせられるとは、初めてこの世界のハルヒに引っ張り込まれたときに考えもしなかった。 さて。 材料は全てそろった。まだ唯一にして最大の懸案事項は残っているが、この際仕方がない。次にやることは一つ。 宇宙人・未来人・超能力者が存在している世界を作ることだ。 ◇◇◇◇ 俺はもう4回目になる北高入学式の早朝ハイキングコースを歩いていた。俺の世界の正式・正統な入学式を含めれば もう五回目か。一体俺は何度入学すれば気が済むのだと愚痴りたくなりつつも、それ自体は俺も同意しているんだから グダグダ抜かすなと心の中の天使だか悪魔だかの声が聞こえてくる。 そして、平穏無事に終わった入学式後、教室での自己紹介タイムまで到達した。 俺は背後の席にハルヒがむすーっとした表情で座っているのを確認しつつ、自分の席に座った。 と、ここでハルヒがごんと椅子の底を軽く蹴ってくる。全くなんだ。いきなり事前の打ち合わせを無視した行動を してほしくないんだが。 「……何か?」 俺がゆっくりと振り返ると、やっぱり不機嫌顔で腕を組んだハルヒがこっちを睨みつけてきている。 その視線を見ると大体は言いたいことはわかったが、はっきり言ってただの意味のない文句だけみたいだから 相手しないようにしよう。だからこそ、ハルヒも口を開こうとしないんだろうし。 この宇宙人・未来人・超能力者のいる世界を作ったときに、ハルヒとこういう取り決めで行動することにしていた。 まずハルヒは中学時代――自分の力を自覚した直後からこの世界には行ってもらい、俺は北高入学式からにする。 これに関しては校庭落書きの一件を意識した上での俺の要望だ。同じになるとは限らないが、ひょっとしたら 眠りこけた朝比奈さん(小)を連れた俺が現れるかも知れないからな。念には念をってことだ。 ただし、その間に起こること――例えば、学校の校庭に落書きするハルヒとか、実はその時重なるように 俺は三人存在(中学生の俺・七夕のときの俺・冬のあの日の俺)していたりとか、俺の世界で起きたことについては ハルヒにまったく教えていない。前回の世界で思い知らされたように俺の世界とまったく同じにするのは不可能だし、 予定を決めてハルヒに動いてもらうと返って不自然さが増すだけだからな。中学時代どうするかはハルヒに一任することにした。 ちなみにふと俺の方からその時に聞いてみた今更な疑問だったが、前回までのように中学時代をすっ飛ばしたら その間のハルヒはどういう立場になっているんだ?と聞いてみると、 『ダミーみたいなものを置いておくのよ。後はこっちから操作して、時間軸を早回しして問題が起きないか確認。 で予定時間になったらあたし自身と入れ替えるわけ』 外部から操れる人形がおけるなら、今までだってわざわざ作った世界に入らずにダミーとやらをこの時間平面の狭間から 操っているだけで良かったんじゃないかと突っ込んでみたところ、 『外から見ているだけだと臨機応変に対応できないし、なんていうか自分の目で見ているのとは大きく異なるわ。 それにあんまり不自然に操っていると情報統合思念体に勘づかれる可能性もあるから。だから、その手を使うのは 大した問題が起きないってわかってときだけよ。幸い中学時代は平穏だってわかっているからこの手が使えるんだけどね』 頭半分で理解しておくにとどめた。難しいレベルに突っ込むと頭がパンクするからな。 話を戻して。 俺が高校からだったのは、ハルヒ曰く脳天気なあんたを三年間も日常生活を歩ませたら何をしでかすかわからんとか 言うからである。まあ、三年も非現実的な世界から遠ざかっていたら、入学後の驚異の世界への突入に拒否反応を 示しかねないから正しい判断だろう。どうせ何の宇宙人とかの属性を持っていない俺なら、ダミーとやらで十分だからな。 で、俺の入学後も俺とハルヒは目立つように接触しない。これも取り決めの一つだ。なぜかというと前回の世界で 長門が俺に注目したのは入学当初から、変人ハルヒが俺とだけ気兼ねなく接触していたからと言っていたである。 確かに何の接点もなかった二人がぺらぺらとしゃべっていたらおかしいと言える。そんなわけで、GWが終わるくらいまで 二人とも大人しくしておこうと決めている。 ……多分、その大人しくしておくというのの不満が積もっているんだろう。さっきの蹴りはそれを意味しているんだと推測する。 ほどなくして、教室に担任の岡部が入ってきた。快活な口調で自己紹介などを生徒たちにさせ始める。 もちろん俺はこの時に朝倉がいることを見逃していない。前回の世界でずたぼろになりながらハルヒが消滅させたのに、 やっぱり復活しているんだな。前の世界の存在をリセットして情報統合思念体にもそんな世界はなかったと 誤認させているんだから仕方がないんだが。 やがて俺の順番になり、適当な挨拶をすませた。 そして、その後ろにいるハルヒへと順番が回る。 その時のハルヒの自己紹介はとても懐かしい気分にさせられるものだった。 「東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人・未来人・超能力者がいたら あたしのところに来なさい。以上」 ――すでにいる異世界人(俺)は抜けていたが。 ◇◇◇◇ 入学式から数日後の放課後、俺とハルヒは人目を避けて非常階段の踊り場で落ち合っていた。一度だけは情報収集+意識あわせで 話し合うというのも事前取り決めの一つだった。 「で、自己紹介はあんな感じで良かったわけ?」 「ああ、あれでお前が変なものに興味津々ってのがアピールできただろうから」 しかめっ面のままのハルヒに、俺はそう答える。 さてこの状態で長くいるのはまずいからさっさと意識合わせするか。 「で、この三年間変わったことはあったか?」 「真っ先に思いつくのは、中一のときにあんたとみくるちゃんが来たわよ。あたしの校庭落書きに付き合ってくれたわ」 「……お前、アレやったのか」 俺は呆れ顔になる。教えてもいないのに、団長ハルヒと同じことをやるとはやっぱり基本的人格は同じってことか。 ハルヒは肩をすくめつつ、 「何よ、思い当たる節でもあるわけ? まあそれはいいけど、ちょっと暇だったからなんとなくね」 そうなるとこのまま行けば、七夕のときのTPDD~長門の部屋で三年間朝比奈さんと添い寝があるってことか。 ん、ならひょっとして…… 「一応そのときの状況を確認しておきたいんだが、俺と朝比奈さんは手伝っただけなのか?」 「みくるちゃんはすやすや眠っていたわよ。あんたなんかやったんじゃないでしょうね?」 何もしてねえよ。まあ、朝比奈さん(大)からはチュウぐらいならOKと言われていたが、自制したぞ。 いやそんなことはどうでもいい。 「ってことは、手伝ったのは俺だけか。その後に何か言っていなかったか? 世界を大いに盛り上げるジョン・スミスをよろしくとか」 俺の指摘にハルヒは記憶の糸を穿り返すようにあごに手を当てて思案顔になるが、 「そんなことは言っていなかったわよ。ただ手伝って、完成したらあたしはとっとと家に帰っちゃったし。 大体、ジョン・スミスって何よ。あんたにそんな風に名乗られた覚えはないわ」 ハルヒの返答に俺ははっと気がつかされる。そりゃこのハルヒと俺はとっくに顔見知りなわけで、さらに朝比奈さん(小)が 眠っている間だったことも考えると、わざわざ偽名をハルヒに名乗る必要はない。俺の世界では一種の切り札みたいな名前だが、 この世界ではハルヒが力を自覚している時点でまったく意味を成さないのだ。そういうわけで、その名はハルヒに対して 今後も使われることはないだろう。この時点でもう俺の世界とは大きく異なっているな。しかし、二度目の接触、 よろしく!に変わるものがまったくなかったのに、俺は疑問を覚える。どうなっているんだ? あの冬の日の事件は 今後も起きないことになっているのか、それともあったがその必要がないから何もしなかっただけなのか。 ううむ、この時点では判断のしようがない。 ただ冬の事件がなかったことについてはもう一つ確信を得るような状況があった。少し前に部活動について調査したところ 長門は文芸部には入っていなさそうだからな。そうなると、俺は三年前長門に文芸部室で待っていてくれと 言わなかったことになる。 「…………」 とりあえず、そのことについては保留だ。この世界で唯一の問題は長門の暴走を情報統合思念体がどう対応するのかだからな。 成功してハッピーエンドになるかどうかはそれ次第な以上、時期が来るのを待つしかない。長門が暴走せずに穏便に 一人の少女になってくれるのが一番ありがたいから、そうなるように努力すべきだろうが。 「他にはなんかなかったのか?」 「何にもなかったわよ。あまりになさ過ぎてずっとイライラしっぱなしだったわ。ただ待っているだけっていうのはつらいものよ。 おかげでかなり閉鎖空間で大暴れしちゃったから、古泉くんも結構苦労したでしょうね」 ハルヒのあっけらかんとした発言に、俺はお気の毒にと古泉へと手を合わせておいてやる。 まとめると、変わったことは校庭落書きだけか。そうなると、特別な対応は発生せず予定通りに動けばいい。 GW終了後にSOS団――名称は何でもいいから、宇宙人・未来人・超能力者が集う団体の設立ってことになる。 おっとそういえば未来人と超能力者はきちんといるんだろうな? 「昼休みにみくるちゃんは確認したし、三年間機関らしい連中があたしの周囲を見張っていたから問題ないわ。 同時に前回の世界みたいな小規模組織の乱立も起きていないからね。機関か未来人のどっちかが大半のものを つぶしてくれたみたい。おかげでこっちは大助かりだわ」 ハルヒの言葉に、俺はほっと安堵で胸をなでおろす。これで役者は全員そろったって訳だ。あとは俺たち次第になる。 「大体事態は把握できた。じゃあ、後はGWまで大人しくしていようぜ。そっから行動開始だ」 「ちょっと待って」 俺はとっとと解散しようとしたが、すんでのところでハルヒに足を止められる。見れば、少し迷いながらもようやく決意したと 言った表情のハルヒの視線がこちらに向けられていた。 「あんたの世界であった冬の一件について教えて。それだけはやっぱり事前に知っておきたいから」 その要求に俺は顔を困惑で顰める。この世界に入る前、俺の方から同様にハルヒへ教えておこうと思ったんだが、 それを拒否したのはハルヒだぞ。どういう心変わりだ? ハルヒは肩をすくめつつ、 「あの時はまだ有希の消滅が受け入れられていなかったから正直そんな話を聞きたくなかったのよ。でも、三年間じっと考える 余裕ができてやっぱり聞いておこうと思い直したわ。条件が同じなら、この世界でも同じことが起きるかもしれないしね」 俺はやれやれと思いつつも冬のあの日のことについて教えてやることにする。 朝起きてみたらまったく異なる世界に改変されていたこと。 そこではハルヒと古泉は別の学校にいて、長門はごくごく普通な文芸少女になっていたこと。 結局長門の緊急脱出プログラムで脱出できたこと。 そして、その世界を改変した犯人は長門だったということ。 全部話すといつまでたっても終わらないのでかいつまんで説明してやった。 ハルヒはその話を聞いて、少し憂鬱そうに顔をうつむかせ、 「そっか……有希がそんなことをしたんだ」 「……当時俺は長門に何でもかんでも頼りっぱなしだったからな。そんな状態に追い込んだ責任は俺にもあると思っている」 だが、現在における最大の問題はどうして情報統合思念体がそれを許したのかがわからない。前回の世界の長門と 何の差があるというのだろう。奴らにとってはインターフェースが暴走しハルヒの力を消して自らを抹殺したという点は まったく変わらないはずなのだ。ひょっとしたら、何だかんだで長門は緊急脱出プログラムを用意していたし、 時間という考え方が俺たちとは全く異なることから考えて、結局元通りになるとわかっていたから…… いや――さっきも言ったがやめておこう。今考えてもどうにもならん。俺にできるのは長門に負荷をかけることなく、 普通の少女になってもらう努力をするだけだ。 この話を最後に俺たちは解散した。ハルヒはあと一ヶ月か……とまたも憂鬱そうな表情を浮かべていた。 一方で俺はどうでもいいことを思っていた。 せっかくだから中学時代にハルヒに髪を伸ばしてもらって置けばよかったと。それならまた曜日で変わる髪形が 見れたかもしれなかったのに。 ◇◇◇◇ 入学式から一ヶ月特に変わったこともなく過ぎてGW明けとなった。 さて、休みがてらそこそこにしゃべれるぐらいの関係になったことをアピールしていた俺とハルヒは、 ここから本格的な行動開始となるわけだが、授業終了後ハルヒは一目散にさてどうしたものかと考える俺のネクタイを 引っ張って走り出す。動くならせめて前準備をしてからだな…… 「そんな悠長なことを言ってられないわ! この日のために三年も待ったのよ!」 そんなことを言いながら、まずは6組へ突入。帰ろうとしていた長門をとっ捕まえて自分についてこいと一方的に告げる。 ただ長門自身も拒絶することはなく、 「わかった」 そう了承し、今度は二年の教室へ全力疾走するハルヒの後ろをついてきた。やれやれ、なんと言う猛進振りだ。 そして、二年二組に入ると部活動へ行こうとしていた朝比奈さんの腕をつかみ、 「はーい、確保!」 「ふえ? ――うひゃあああああ!」 ハルヒはもう朝比奈さんの意思も聞かずに抱きかかえて走り出した。おい、今度はどこに行くつもりだ。 まだ古泉は転校してきていないぞ。長門と朝比奈さんをそばに置いたがために、古泉は転校を余儀なくされたわけだけどな。 「あ、ちょっとみくるをどうするつもりだいっ!?」 その様子を見ていた鶴屋さんは、あわててとめにかかるが、持ち前の機敏さでハルヒはするりとよけて、 「キョンっ! あたしたちは文芸部室に行くから、鶴屋さんに事情を説明しておいて! あとよろしく!」 そう言って朝比奈さんを拉致して立ち去って行っちまった。ちょこちょことその後ろを長門がついていっている。 やれやれ、本当に鉄砲玉みたいな野郎だ。三年間溜まりに溜まった我慢を今爆裂させているんだろう。 さてこのままだと鶴屋さんに通報されかねないからフォローしておかないとな。 「お騒がせしてすいません。とりあえず、朝比奈さんに危害は――ええとそこまでひどいことはしませんのでご安心ください。 ただちょっとお友達にと」 「ふーん、キミとさっきの女の子は誰なのさっ?」 珍しく疑惑の視線を見せる鶴屋さん。まあ朝比奈さんの保護者みたいな存在だから、心配なのだろう。 「一年のものです。さっき朝比奈さんを強奪して言ったのが涼宮ハルヒ。うちのクラスの名物暴走女ですよ。 朝比奈さんを見かけてどうやら一目ぼれしてしまったみたいで。もう一人は長門有希。となりのクラスの人であって5分も たっていませんが」 思わず自分の説明で苦笑いしてしまう俺。無茶苦茶な状況すぎるだろ。 案の定、鶴屋さんも訳がわからないという疑問符を浮かべていたが、やがてぽんと手をたたき、 「ああっ、あれが涼宮ハルヒって人なんだねっ! ちょっと忘れていたけど思い出したよっ! そっか、みくるが気に入ったかっ!」 のわはっはっはと大声で笑い出し、突然自己完結してしまった鶴屋さん。何でそんなにあっさり…… ってそりゃそうか。鶴屋さんは遠巻きながら機関の関係者であり、ハルヒのことについても何らかの情報がわかっているはず。 俺の世界ではそう言ったことを断言はしなかったが、匂わせる発言はあったからな。ハルヒが特別な存在というぐらいは 知っていてもおかしくはないだろう。 ここで鶴屋さんは俺の肩をパンパンとたたき、 「よっし、わかったよ。深い事情は聞かないからみくるをキミに任せるっ! でも、あの子は弱い子だからあまりいじめちゃ だめにょろよっ」 「ええ、それはもちろん。ハルヒの魔の手からできるだけ守りますんで」 鶴屋さんが物分りのいい人で本当に助かった。これでこの場は落ち着いたはずだな。 俺はがんばれと手を振る鶴屋さんに一礼すると、文芸部室へと向かった。 「……遅かったか」 文芸部室に入った後の俺の第一声。見れば、相当もみくちゃにされたのだろう。床にひざを抱えて しくしくとすすり泣いて座り込んでしまっている朝比奈さんの姿が。全くハルヒの奴は加減というものを知らんからな。 一方のハルヒはかばんから何かを取り出そうとごそごそとやっている。まさかバニーガールではあるまいな? さすがに初日にアレをやると、朝比奈さんがパニックを起こすから全力で止めさせてもらうぞ。 拉致されたもう一人の長門は、文芸部に置かれている本棚をじーっと見つめていた。どうやら何か感じるものがあるらしい。 せっかくだから、俺は前の世界で最初に読ませてやったあのSF小説を取り出すと、 「読んでみるか? 結構面白いと思うぞ」 「…………」 長門はめがね越しの視線でその表紙を見つめていたが、やがてそれを受け取るとぺらぺらとページをめくって 内容を読み始めた。よし、これで読書狂長門できあがりっと。 ここでハルヒはようやくかばんから取り出したものを俺たちに配り始める。内容は文芸部への入部届けだ。 ハルヒが勝手に書いたのか、後は自分の名前をサインすれば言いだけの状態になっていた。 「はーい注目。これからここにいる全員はいったん文芸部に入部してもらうわ」 「おいちょっと待て。文芸部に入ってどうするんだよ?」 俺の突っ込みにハルヒはちっちっちと指を振って、 「文芸部は仮の姿。一応部室を占拠しておくにはそれなりの理由が要るからね」 偽装入部かよ。なんてことを考えやがるんだ。長門が文芸部入りしていない以上、ここを使うにはこの手しかないのは事実だろうけど。 「ほらほらとっとと入部届けにサインしなさいよ。あとみくるちゃんはいつまで泣いてんのよ。そんなのじゃ、 渡る世間は鬼ばかりの世界は生きていけないわよ」 鬼はお前だろうが。まあいい、これ以上続けても仕方ないからとっととサインしてしまおう。 どういうわけだか――いや予想通りかもしれないが、長門はもうサインを終えて、SF小説の続きを読んでいるからな。 ここでようやく朝比奈さんはローン30年が残っている家が地震で倒壊したのを目撃したサラリーマンのように 肩を落としたまま立ち上がり、 「で、でも、あたし書道部で……」 「じゃあ、そこちゃっちゃとやめちゃって。我が部の活動の邪魔だから」 一応抵抗を試みたのだろうが、ハルヒは全く取り付く島もない。 朝比奈さんはどうしようとおろおろをしばらく続けていたが、やがて長門がサインした入部届けを見て、 「……そっかぁ。わかりました。こっちの部に入部します……」 その声は可哀想になるぐらい悲愴なものであった。しかし、やっぱり長門の存在が気になるようだな。 ふと、朝比奈さんはまたまた困ったという顔を浮かべて、 「でもでも、あたし文芸部って何をするところなのかよく知らなくて」 「さっきもいったでしょ。文芸部は仮の姿だって」 「?」 ハルヒの言っていることの意味がわからないらしい朝比奈さんは、頭の上にはてなマークを浮かべるような 愛らしい疑問を顔に浮かべた。 ここでハルヒは高らかに宣言する。 「我が部の本当の名前――それはSOS団よ!」 世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団。 それを聞いたとたん、朝比奈さんを取り巻く空気が固まった。しかし長門は無視してSF小説に没頭している。 一方で俺は呆れ顔だ。 おいハルヒ。その名前でいいのかよ。事前の打ち合わせで、なにその安直なネーミングセンスはとか言っていただろ。 なんだかんだで実は気に入っているんじゃないのか? 朝比奈さんは何かを聞こうとして顔をいったん上げるものの、すぐにあきらめたような表情に変化してうつむいた。 だんだんハルヒっていう奴の性格がわかってきたんだろうな。長門はどうでもいいと完全に無視だが。 そんなわけで、俺の世界のときと同じように、ここにSOS団がついに誕生したのである。 いやはや、ここにたどり着くまで長かったから少々感慨深いものがあるな。 ただ……ハルヒが力を自覚し、長門・朝比奈さん、そしてもうすぐやってくるであろう古泉の正体を知っている限り、 その活動内容には若干異なるところが出てくるだろうけど。 ふと、俺は長門と朝比奈さんを交互に見渡す。 朝比奈さんは自分の任務に耐えられなくなり自殺を試みた。 長門は俺とハルヒとともに居たいがために、情報統合思念体を抹殺しようとして初期化されてしまった。 こうしていつもどおりの二人を見るとうれしいが、一度見てしまった惨劇と悲しみは早々心から消えるものではない。 俺の中では少々複雑な感情が入り混じっていた。やれやれ、トラウマになっているようだな。 ◇◇◇◇ SOS団結成から数日間、俺はその活動初期の悪事を抑えるべく奮闘していた。まずはコンピ研パソコン強奪。 あれをやると後腐れが残るからな。もっともハルヒはハルヒでも別のハルヒなんだからやらないんじゃないかと 淡い期待をしてみたが、言い出したときにはパソコンショップで強奪対象を精査するという事前準備までして 突撃準備OKの状態だったりしたもんだから、俺は即刻その計画を阻止した。やっぱり根本は同じ奴だよ、全く。 ただこれを阻止すると、のちにコンピ研とのゲーム対決がなくなって、長門がパソコンに興味を抱かなくなる可能性が 頭に引っかかったが、ただパソコンを使わせるのならそんな因縁めいた舞台なんて用意する必要はない。そのうちどうにかするさ。 ちなみにハルヒにはもうすぐ古泉がやってくるから、そっちに言えば用意してくれるさと言い聞かせておいた。 あと、バニーガールでのビラ配りだがこれはハルヒの方からやるとは言い出さなかった。まあ、すでに宇宙人・未来人を 確保し、もうすぐ超能力者までやってくるSOS団がこれ以上この世の不思議を募集する必要なんてない。俺の世界との違いを考えると こうなるのは必然と言えよう。ただし、ハルヒの朝比奈さんに対するコスプレ癖はそのままのようで、 事あるごとにバニーガールやメイドに変身させていた。パソコン強奪を取りやめにしてくれたのと引き換えに これは容認しておいたが。それにこれがないとなんつーかSOS団らしくないというか…… で、ようやく最後の一人古泉の到着だ。 「ヘイお待ち! 本日一年九組に転校してきた即戦力をつれてきたわよ!」 その日の放課後メイド姿の朝比奈さんとオセロに興じていた文芸部室に威勢のよい声とともに飛び込んできたのはハルヒだ。 その手に引きつられてきたのは、あの胡散臭いインチキスマイルを浮かべているあいつだ。 「古泉一樹です……どうもよろしく」 そう言って近づいた俺に握手を求めてきたため、俺もそれに答える。 ……その瞬間、超能力者オンリーの世界の出来事、特に機関の暴走のシーンが脳裏によぎり俺の顔が少しゆがんだのを 自分でもわかってしまった。やっぱりトラウマになりかけているな、やれやれ。 「どうかしましたか?」 「い、いやなんでもない。よろしく」 俺は平静を取り繕って、不思議そうな顔を浮かべている古泉に挨拶を返す。思えば、こいつは一番最初に 構築した世界だったため会うのは相当久しぶりだ。 ハルヒは手でSOS団の部員をそれぞれ指差して言って、 「それが有希。そっちのかわいいのがみくるちゃん。で、今握手したのがキョン。みんな団員よ。で、あなたが4番目の団員。 そして、あたしがその頂点にいる団長涼宮ハルヒ! よろしく!」 「ああなるほど」 古泉は部室内の団員を一通りまるで観察するかのように見回すと、そううなづいた。宇宙人と未来人の存在を確認できたということか。 しかし、異世界人(俺)までいるとはわかるまい。何か出し抜いてやった気分だっぜ。 「入るのはいいんですが、一体何をするクラブなんでしょうか? 申し訳ないんですが、いまいちピンとこないので」 この古泉の問いかけに、ハルヒはにやりと笑みを浮かべると、 「いいわ。教えてあげる」 そう言って大きく息を吸うと、部室どころか旧館全体に響くでかい声で宣言した。 「ここにいる全員友達になって遊んで遊びまくることよ!」 ハルヒの宣言に空気が死んだ。 まあ無理もない。突然、宇宙人・未来人・超能力者をピンポイントに集めたかと思えば、一緒に遊び倒しましょうってんだからな。 そんなハルヒに古泉はスマイルを絶やしていないし、朝比奈さんはおろおろするばかり、長門は話を聞いているのかいないのか ひたすら読書中である。 俺の世界のハルヒは、宇宙人みたいなものを探すことを目的としているが、それはすぐ近くにそんな奴らがいることを 知らないからそう言っているのであって、このハルヒはそれを知っている以上探す必要などない。 とはいっても、SOS団団長――ああ、今両方とも同じになったか。俺の世界のSOS団も不思議なことを探すとか言って おきながら実際にはそれとはあまり関係のないお遊びサークルと化しているからな。活動内容自体に大差はないといえる。 「SOS団の旗揚げよ! いえーい、これからみんなでがんばっていきまっしょー!」 ついに全員そろったことに喜びを爆発させているのか、ハルヒの声はどこまで明るく透き通っていた。 さてと、ここからが本番だな。この先、平穏無事にことが進んでくれることを祈るばかりだ。 ◇◇◇◇ それから数日間は俺の世界と同じようにカミングアウトラッシュとなった。 まず長門が本に仕込んだ栞のメッセージで俺を呼び出し、宇宙人であることを告白。 週末のハルヒ主催の出歩きツアーで朝比奈さんが未来人であることを告白。 その週明け、俺の方から古泉へ接触し超能力者であることを聞かされる。同時に機関とその役割についてもだ。 それと同時に始まったSOS団活動だったが、ハルヒはこれでもかというぐらいに団員たちを引っ張りまわした。 ある時は読書狂の長門に答えるかのように古本屋めぐりで変わったものがないか捜し歩いた。 次に朝比奈さんのコスプレ衣装を選ぶとか言ってデパートで衣装の選び大会。どこからそんなに金をがめてきたのか。 さらに古泉用にとボードゲーム大会を休日の部室で開き、ハルヒ先生による攻略法講座までやった。それでも古泉は弱いままだったが。 ――ただ、俺はこのハルヒに少しだけ違和感を感じ取っていた。それが何なのか言葉には出来なかったが。 ◇◇◇◇ そんな状態が続いたある日、下校時刻になった俺たちはいつもの長い坂を下っていた。ハルヒは朝比奈さんに何かを熱心に語り、 長門はやっぱり読書したまま歩いている。最後尾には俺と古泉が歩いていたが、 「さすが涼宮さんですね。この十日程度でこれだけのパワーを見せ付けてくるとは思いませんでしたよ」 「最近のハルヒのはしゃぎっぷりについてか?」 「そうです。まるで僕たちと一緒にいるのが楽しくてたまらないという感じですね。最初はまさか未来人や宇宙人を集結させて 一体何をするつもりなんだろうかと思っていましたが、このような遊びで満喫しているだけのようなので一安心です」 そうにこやかな笑みを浮かべる古泉。 ま、それがハルヒがSOS団を作った理由だからな。当然といえば当然のことだ。 ふとここで俺はこいつの役割について思い出し、 「そういや、最近お前の仕事のほうはどうなんだ? やっぱり頻発していたりするのか?」 「いえ、涼宮さんも十分に楽しんでいるようでして、全くストレスを感じていないようです。そのためか、閉鎖空間・神人も 全くご無沙汰な状態ですよ。僕も落ち着いて日常的学校生活を楽しめています」 古泉の話にほっと安堵する俺。最近のハルヒの行動は少々違和感を感じていたからな。実はストレスを溜め込みまくっていて、 あの灰色世界で暴れているんじゃないかと不安になっていたが、ただの取り越し苦労で済みそうだ。もっとも、このハルヒは 意識して意図的に閉鎖空間を作っているんだから、たとえストレスを溜め込んでいてもそれを発生していないだけかもしれんが、 あいつの性格を考えるとその可能性も低いと思われる。 古泉は続ける。 「中学時代の涼宮さんとは雲泥の差ですよ。あの時は毎日ストレスを抱えていて、ことあるごとに閉鎖空間で暴れていましたからね。 SOS団設立後では本人の表情もまるで違うのは、入学当初から一緒だったあなたも感じていることなのではないですか?」 「まっ、確かにあいつが元気になったのだけは鈍い俺でもわかるよ。今の学校生活を心底楽しんでいるんだろうな」 事実を知っている俺からしてみると、思わず突っ込みたくなる衝動に駆られてしまうが、ここは堪えて適当に流しておく。 演技を続けるって言うのもつらいもんだ。そういや、俺の世界では古泉がその不満について愚痴を言っていたが、よくわかるよ。 戻ったらご苦労さんの一言ぐらいかけておこう。ああ、ついでに生徒会長にもな。 ふと、ここで古泉は前を歩くハルヒを見つめながら、 「ですが、少々疑問があるのも事実です。SOS団結成前後では涼宮さんの心情は全く異なっている。なぜなんでしょうか。 まるで僕たちが集まるのを待っていて、中学生時代はそれをストレスに感じていたのでは、と疑いたくなるほどですよ」 俺は一瞬ぎくりと心臓の鼓動が跳ね上がった。まさにその通りだった。ひょっとして機関――古泉はその可能性を疑っているのか? しかし、古泉が続けた言葉が少々意味合いが異なっていた。 「つまりですね。涼宮さんは入学式の自己紹介で――これは機関からの情報で僕は実際に聞いたわけではありませんが、 宇宙人・未来人・超能力者を探していたじゃないですか。この場合、長門さん・朝比奈さん・僕が上手い具合に当てはまるわけです。 そして、僕たちがそろったのと同時に涼宮さんのストレスは一気に解消された。つまり、涼宮さんは目的を達成したと認識している 可能性があるということです」 そうきたか。だが、それでも矛盾があるだろ。 「そうなるとハルヒはお前らが普通の人間じゃないと認識していることになっちまうじゃねえか。だが、SOS団設立の時でも ハルヒにそんなそぶりなんてまったくなかったぞ。大体、せっかくそういった連中を集めたって言うのに、やっていることは 普通のお遊びサークル状態だ。何のために宇宙人みたいな連中を集めたのかさっぱりわからん。それにお前らがそれを ハルヒに察知されるようなことをしていたわけでもない」 「涼宮さんは無意識下でそれを望んだんですよ。だからこそ、僕たちが集められた。これはこないだも話しましたよね。 さらにその無意識下での認識でありながら、涼宮さんは現状に満足してしまった。そう考えられませんか? 事実、SOS団の活動であなたも言った通り、宇宙人・未来人・超能力者に関わることは何一つとして言っていませんから」 無意識下ねぇ……実際には無意識どころか待ちに待った連中がついにやってきたんだから、そんなことはないと言える。 しかし、それを言うわけにもいかないから、 「難しく考えすぎじゃないか? 俺には単にハルヒが遊ぶことに夢中になって、そんなことはどうでもよくなったと思っているんだが」 そう別の方向に誘導しておく。あまり深く突き詰められて、真実にぶつかっても困るだけだからな。 古泉は苦笑しつつ、 「確かにその可能性はあります。僕のは個人的な推測に過ぎませんので。しかし、今の涼宮さんは幸せだというのは 確実にいえることですね。以前の灰色の砂嵐だった精神状態からは完全に脱していますよ」 「それについては異論はねえよ……中学生時代のハルヒはよく知らんが、この一ヶ月でもその変化ははっきりとわかっているさ」 ここで俺たち二人の会話が途切れる。前を歩くハルヒはまだ朝比奈さんに対して得意げに語っていた。 日が傾き、空をカラスの集団が飛んでいく。 俺はふと思いつき、 「なあ古泉。一つ聞いておきたい」 「何でしょう?」 「今の立場に満足しているか?」 「十分に満足していますね。涼宮さんの精神状態は安定し、閉鎖空間の発生頻度もほとんど――」 「そうじゃなくて」 俺は古泉の言葉を手で静止してから、 「お前自身はどうなのか聞きたいんだ。ハルヒにここ最近引っ張りまわされているだろ? それはお前にとって、 面白いのかつまらないのかってことだ」 その質問に、古泉は顎に手を当ててしばらく思案を始めた。そして、やがてゆったりと口を開き始める。 「難しい質問ですね。僕としましては、楽しいとかそんな感情よりもどうしても涼宮さんが安定してくれてうれしいという 考えに至ってしまいます。これもずっと機関で彼女を見続けたことが原因でしょう。僕はSOS団の前に、機関の一員なんです」 「そうか……」 俺の世界の古泉とは真逆のことを言われて、俺は少々気分が重くなった。やっぱり今俺の目の前にいるのは、 ただの超能力者・古泉なんだな。SOS団を作ってからまだそんなに経っていないから無理もないんだが、 こう直接言われるとやはりショックを受けてしまう。 そんな俺を見ていた古泉はここで、ですがと話を続け始め、 「確かに今はそんな感情しか生まれてきません。でもたまに思うんですね。機関の一員とか超能力者とかそんな属性を 投げ捨ててみたら自分はどんな気分になるんだろうと。ひょっとしたら、純粋にとても楽しい学校生活を歩めるかもしれない……」 そうしみじみと言った。 そうか。古泉もそういう感情はあるんだな。それを確認できただけでもほっとするよ。 「この際だから言っておくが、俺は現状が楽しくてたまらない。ハルヒはわがままで横暴だが、あいつのやることには どこか興奮させられる部分があるからな。だから――この生活を失いたくない。絶対にだ」 「…………」 俺の言葉を古泉はただいつものスマイルのまま見ていた。おっと、ついでだから言っておくか。 「お前の話を聞く限りだと、どうもこのSOS団をぶち壊しかねない思想の連中がいるみたいだったな。 そいつらの好きにはさせないでくれ。俺は現状を守り抜きたい」 「肝に銘じておきましょう」 古泉の返答からは、それが機関の人間としてのものなのか、SOS団としてのものなのか判断は出来なかった。 ◇◇◇◇ SOS団設立からしばらく経った後、俺は朝倉に襲われた。シチュエーションは俺の世界のときと全く同じで 放課後に教室に呼び出し→ナイフで襲われるという形だった。 この件については事前に予測が出来ていたため、ハルヒと対処について相談していた。なにせ、この世界の現状の推移は 俺の世界とは似通っているとはいえ、根本的にSOS団の活動内容など異なる点も多い。長門の救援が間に合わなかったり あっさりと俺が殺されてしまう可能性も否定することなど出来ない。ただ、それを考えると朝倉が暴走しない可能性だって 十分にあるわけだが、前回の世界といい俺の世界といいそれは低いんじゃないかと思いたくなる上、 殺される恐れがあるなら用心するに越したことはないはずだ。 そんなわけで事前に長門たちの隙を見計らって昼休みにハルヒと相談していたんだが、 ……… …… … 「ふーん、なるほどね。もうすぐに朝倉があんたを殺しに来るっていう可能性があるわけか」 「そうだ。で、当時は長門に助けられたわけだが、ここでも同じになるとは限らない。そこで事前になんかいい手がないか 相談したいんだ」 いつもの非常階段踊り場の壁に寄りかかり思案顔になるハルヒ。 正直なところ、ハルヒに相談したところでどうにかできるのかという疑問もある。こないだのハルヒVS朝倉では、 戦うというより一方的に蹂躙されまくっただけで、最後にサヨナラ逆転満塁ホームランが飛び出して勝利しただけだ。 しかし、だからといって事前に長門に相談するわけにも行かず、古泉にそれとなく話したところであの朝倉と対等に 戦えるだけの力を持っているとは思えない。ああ、朝比奈さんは論外な。実力云々の前にそんな危険なことにあの人を関わらせたくない。 とはいえ、命の危機が迫っているかもしれないのにただ黙っているのは何かこうむずむずしてきて嫌だ。 ハルヒはしばらく黙ったまま考えていたが、 「でもさ、有希ってそういうこと事前に察知できるだけの情報操作能力を持っているような気がするんだけど。 あいつら、あたしたちの言う時間の流れとは異なる概念を持っているみたいだしね。そうなら朝倉に襲われても 必ず助けに来るんじゃないの? 文芸部活動でおかしくなるほどに負荷をかけているとも思えないから」 ハルヒの指摘に俺は腕を組んで考える――と同時に思い出した。そういえば、長門は冬のあの事件を起こすまでは 未来の自分と同期ができるとか言っていたっけ。ん? そう考えると、長門は三年前の七夕の時に未来の自分と同期を 取っていたわけだから、自分が暴走することも知っていたし、そうなると当然朝倉が暴走することも事前に知っていたことになる。 ならあのぎりぎりの救出タイミングはわざと狙っていたのか、長門さん? わざわざかっこよさを演出する必要なんて 長門には全くないからきっと別の理由があるんだと考えておこう。 俺はそれを認識してそれなりの安心感を覚えると、 「ああ、そういや長門はそういうことも可能だって言っていたな。なら大丈夫か」 「そうよ。どのみちインターフェースの動向に関しては連中の内部で処理させたほうがいいわ。あたしが動くとばれる可能性が 飛躍的に高くなるしね。有希なら何とかできるでしょ」 … …… ……… とまあそんな結論至っていたため、安心は出来なかったが特に対応策はとらずに、そのまま朝倉に襲われることになった。 やれやれ、襲われるのをわかっていながらホイホイとそれを受け入れるってのも酷な話だぜ。 結局のところ、途中で長門が助けに来てくれたおかげで俺は無事生還。朝倉も無事消滅させることに成功した。 順調に言ってくれて何よりだ。長門が痛めつけられるのを見るのは辛かったけどな。 ついでに、やっぱり教室に入ってきた谷口を追い出しつつ、長門にメガネをはずして置くように促しておいた。 前回の世界だと結局最後までメガネ姿だったが、やっぱり俺はメガネ属性ないし。 朝倉襲撃に関しては全く同じ展開だったのに対して、その次に会った朝比奈さん(大)との遭遇はなかった。 これに関しては最初は動揺し、何かとんでもない間違いをどこかでしたんじゃないかと不安になった。 なぜなら朝比奈さん(大)がいない=朝比奈さん(小)が未来人オンリーの世界のときのように今後自殺という 悪夢の惨劇が待っているかもしれないからだ。 しかし、当時の状況をしばらく考えてから当然であるという結論に至る。あの時朝比奈さん(大)は白雪姫という キーワードを俺に伝えるためにやってきたようだった。もちろんその意味は、ハルヒによる世界改変の時の対処法についてだろう。 思い出すと耳から火を吹きそうになるから、あまり脳内再生したくないが。 ん? ちょっと待て。ということは朝比奈さん(大)はアレをしろと事前に俺に言っていたわけか? さらに言えば、 あの閉鎖空間で長門がsleeping beautity とか告げてきたが、それもアレをしろということなのか? 二人そろってなんてことを求めやがるんだ、全く。 まあ、そんなことはどうでもいい。それは俺の世界ですでに起こった話であって、この世界では同様の事態は発生しないと 断言できる。なぜかといわれれば、そんなことを力を自覚しているハルヒがするはずがないからだ。やるならリセットだろうしな。 そういう意味で朝比奈さん(大)は俺にヒントを告げる必要が発生しなくなり、その姿をあらわさないということになる。 あのナイスバディを超えたダイナマイトが見れないのは少々残念ではあるが、今後は嫌でも顔を合わせる必要が出てくるだろうから、 それまでの楽しみに取っておくかね。 ◇◇◇◇ そこから夏休み直前まで話を進めよう。何でかというと特に変わったことも無かったからだ。 まず、ハルヒによる世界改変は無し。何度も言っているがこれは当たり前の話だ。 SOS団活動で目立ったものといえば、野球大会に参加に参加したぐらいか。結局一回戦で辞退したのも変わらない。 まあ優勝したらしたで面倒事になるだけだし、ハルヒは辞退すると言ったらムスーとしていたが、まあそれなりに楽しんだようだった。 カマドウマ大発生はいつ起きるのやらとハラハラしていたが、考えたらここのSOS団はHPを持っていないんだから 起きるわけがなかった。 おっと、七夕の話があったな。あれについては、やったことは同じだったが、ハルヒの態度が違うのは当然としても、 そこでようやく出会えた朝比奈さん(大)がちょっと意味深なことを言っていた。 ……… …… … 俺と朝比奈さんが三年前の七夕に戻り、夜の公園のベンチでそのまま朝比奈さん(小)が眠らされた時に、彼女はやって来た。 女教師みたいな服で、年齢は20歳前後、ゴージャスがダイナマイトになったあの朝比奈さん(大)である。微妙に空いた胸元に どうしても視線が行ってしまうのは男の性だ、許してくれ神よ。 「キョンくん……久しぶり」 朝比奈さん(大)は(小)を放って俺の手をつかんできた。本当に久しぶりの再開のようで、その表情は懐かしさを発揮している。 このタイミングで久しぶりとか言われると何だか妙な気分だ。思わず俺は困惑して後頭部を掻いてしまう。 「どうかしたの?」 俺が面食らうかと予想していたのだろうか、不思議そうな視線を向けてくる。いかん、これでは不審に思われるな。 えーと当時はどうやって答えたんだっけ? そう必死に記憶の糸をたぐりつつ、 「あの……朝比奈さんのお姉さんですか?」 「あ、うふ、わたしはわたし。朝比奈みくる本人です。そこで今寝息を立てているわたしよりもずっと未来から来た わたしというところですね」 そうにっこりと笑みを浮かべて説明する。だが、すぐにまた感激の表情に切り替えるとぎゅっと俺の手を握り占め、 「……会いたかった」 その言葉に、俺もちょっと懐かしさを憶える。考えてみれば、こっちの世界に旅立ってからかなり経つが朝比奈さん(大)に 遭遇したのは初めてだった。握られた手から暖かい体温が伝わって来るに連れて、その実感が増してくる。 俺は朝比奈さん(大)が前屈みでこっちを見ているため、どうしても上から胸元を除いているような状態になっているになり、 こそこそと視線を外しつつ、 「えっと、なるほど。わかりました。つまり朝比奈さん+何歳かってことですね」 とりあえずとっとと納得しておこう。こういう状態をあまり長引かせるとボロを出す確率が高くなるだけだからな。 しかし、そんな俺の態度を朝比奈さん(大)は納得していないと判断したのか、頬をふくらませると、 「信じてないでしょ? それに女性を歳で判断するのは失礼です」 「ああいえいえ、信じています。確実に。実際に今俺は三年前に戻るなんていうSF体験をしたばかりですからね。 ちょっと変なことが起きてももうあっさり飲み込める自信がありますよ」 俺はあわてて手を振りつつ答える。 朝比奈さん(大)はホントに?と疑いの視線を俺の目に合わせてくるが、同時にこっちの視線が時たま胸元へ向かっていることに 気が付いたらしい、顔を赤らめつつあわてて前屈みのポーズを解除して直立状態に戻った。 このまま話を止めていても仕方がないので、 「で、その朝比奈さんが何の用なんですか? わざわざ三年前に来て、さらに高校生の朝比奈さんを眠らせるなんて 状況がよくわからないんですけど」 「この子の役目は一旦終了です。再開はもうちょっとしてからね。そして、あなたを導くのはわたしの役目になります」 東中へ行けってことかと考えると、朝比奈さんは俺の思考を後追いするかのように、向かい先――東中へ行くように言った。 全く予言者か心の透視能力を持った気分だよ。 ここで朝比奈さん(大)は一歩離れると、 「時間です。これでわたしの役目も終わり。後はあなたに任せます」 この後に、冬のあの時の俺と落ち合うんだな――いや、ちょっと待てよ? それなら、この世界でも長門のエラーによる事件は 起きるっていうことになる。そして、それを越えられたからこそ、この朝比奈さん(大)(小)が存在しているわけだ。 俺は思わず笑い声を上げてしまいそうになったが、あわてて喉から逆の胃袋の方向へと流し込んだ。何でこんなことに 気が付かなかったんだ。 朝比奈さん(小)がいる時点で、この世界は情報統合思念体による排除行動は発生しない。 朝比奈さん(大)がいる時点で、あの思い出したくもない惨劇も起こらない。 つまり未来人絡みの問題は全て解決したということになる。平穏かどうかはわからないが、世界は存在し続ける。 この事実に、俺はまるで勝利気分になった。当然だろ? あれだけ右往左往・七転八倒を続けてようやくここまでたどり着いたんだから。 よし帰ったらハルヒに報告してやろう。俺の役目も終わったも同然だしな。 だが。 次に朝比奈さん(大)の口から出た言葉は、そんな俺の気分をあっさりと覆すものだった。 「別れる前にキョンくんに言っておきたいことがあります」 「……何ですか?」 少し真剣気味な朝比奈さん(大)の言葉に、俺の気分が若干削がれる。 しばらく考える素振りをしてから、彼女は続けて、 「これから先、キョンくんたちは二つの大きな分岐点にぶつかります。詳細については禁則事項になってしまうので言えません。 その他の既定事項についてはわたしたちがどうにか出来る問題だけど、その二つだけはあなたと――涼宮さんにしか解決できないのものなの」 「……二つ?」 その言葉に、俺は真っ先に冬のあの日の事件が思いつくが、もう一つは何だ? 俺の世界でも朝比奈さん(大)でも対処不能で 俺とハルヒだけができるというのは、ハルヒによる世界改変ぐらいしか思いつかないが、それはとっくに時間的に通過済み& ハルヒがそんなことをするわけがないという結論に至っている。 そうなると、この世界特有の問題がこの先に起きるって訳か。全く9回表に満塁ホームランで逆転したのに、9回裏のツーアウトから 土壇場でまた追いつかれた気分だぜ。 朝比奈さん(大)は真剣なまなざしのまま続ける。 「その二つを超えた先にある未来からわたしとそこで眠っているわたしはやって来ているんです。 でも過去は非常に不安定なものであって、脇道にそれないようにわたしたちのような人間が動いています。だけどその二つだけは こちらではどうしようもありません。自分の力を自覚していない涼宮さんは頼れないので、あとはキョンくんだけなんです」 朝比奈さん(大)にも結局ハルヒについてはばれていないのか。いやそれよりもだ。 「よくわからないんですが、俺が失敗したら朝比奈さんの未来へつながらなくなるっていうことですか? それだと、どうして 今ここに朝比奈さんたちが存在しているのか――ああええと、何か矛盾してる気がしてくるんですけど」 「それについては禁則事項というよりも、わたしたちが用いるSTC理論をあなたに教えるのは不可能だから言えません。 概念も立脚もこの時代に生まれた人に教えるのは無理なんです。あ、決してキョンくんの頭が悪いということではないんですよ? この時間平面状で、その話を理解できる人なんて誰一人としていないってことなの」 朝比奈さん(大)の説明を聞く度に、俺の好奇心が揺さぶられてくるがどうせ聞いたってわからないだろうから、 深く尋ねるのは止めておこう。考えるのに夢中になって俺の正体がばれるようなボロを出したらとんでもないことになるからな。 俺は話を打ち切ることを決めると、朝比奈さん(小)をオンブし、 「とりあえずその辺りは深く突っ込まない方が良さそうなんで、今の役割を果たすことにします。でも、その二つの問題っていう ヒントぐらいはもらえませんか? できれば事前準備ぐらいしておきたいんですけど」 「ごめんなさい。全て禁則事項なんです。それほどまでに難しくてデリケートなものだから。ただ一つだけ言えるのは、 それが起こればあなたはすぐにわかるはずです」 朝比奈さん(大)が申し訳なさそうに頭を下げた。やれやれ、ヒントゼロか。今の時点で当てたら一気に無条件で 甲子園優勝の旗が貰える難易度だな。だが、起こればすぐにわかる――つまり、気を抜いたらあっさりと 見逃すようなものではないということだ。それだけでもありがたい情報かな。 「じゃあ、キョンくんまたね。次逢えることを願っています」 またもや意味深な言葉と共に、朝比奈さん(大)は公園の暗がりへと消えていった。二つの問題が解決されたなら、 やっぱりこの後俺と落ち合うことになるんだろうか。その辺りの茂みを探してみたくなる衝動に駆られるが、 そんなことをしたらいろいろぶちこわしになるかも知れないんで止めておこう。 さてと。 俺は軽いんだろうけど、肉体労働に慣れていない俺には重く感じる朝比奈さん(小)を背負いつつ、東中へと向かった。 ここからはちょっとした余談になる。 俺は東中の門前でそこを乗り越えようとしている子供っぽい人影を発見し、 「おい」 そう声をかけてやった。そいつはすぐに反応して、何よとこっちを睨みつけてきたが、 「……なんだキョンじゃないの。何やってんのよ、みくるちゃんなんて背負って」 「朝比奈さん――というより未来人からの指示だよ。俺の世界でも同じだ。どうせこれから校庭に落書きするんだろ? そのお手伝いをしろってさ」 俺は溜息混じりで答える。 電灯で照らされたハルヒはまだ小柄で、朝比奈さんには劣るもののパーフェクトなボディは未成熟だった。 唯一、俺の世界の七夕と違うのはハルヒの髪が短いってことぐらいか。活動的な性格のこいつから考えれば、 短くするのが当たり前な気もするが、この違いは何なんだろうね? どうでもいい話だろうけど。 そんなことを考えている間に、中学生ハルヒは俺の背中で眠っている朝比奈さんのほっぺを突っつきながら、 「あんた、みくるちゃんが眠っている間に何かしなかったでしょうね?」 「してねーよ。てか今から三年後にも同じことを聞かれたぞ」 ハルヒはジト目で俺の否定に、疑惑の視線をぶつけてくる。しまった、朝比奈さん(大)にチュウぐらいならというのを 確認し損ねたな。やるかどうかはさておき聞けることは聞いておけば良かった。 ここでハルヒはまあいいわと言ってポケットから東中の門の鍵をプラプラさせて、 「じゃあせっかくだからあんたに手伝ってもらうわよ。一人だと結構大変だからね」 「ちょっとそこ曲がっているわよ! 本当に方向音痴ね」 「方向音痴は意味が違うんじゃないのか?」 俺はハルヒのキリキリ声を背後に、線引きをひたすら走らせていた。全く何を考えたら、家でゴロゴロするのより、 こんな犯罪まがいの行為をしたくなるのやら。俺なら絶対に前者を選ぶね。 ほどなくして、石灰を白巨大ミミズが暴走した後のような地上絵が完成する。ん、俺の知っているものとかなり異なるものだが、 何か意味でもあるのか? 「一応意味なら込めてあるわよ。人に言うことじゃないし、わからないように暗号化しているけど」 「おいおい、これ仮にも織姫と彦星へのメッセージだろ? 暗号化なんかしたらわからんだろ」 「良いのよ。そのくらい神様なんだからきっと解除するなんて朝飯前よ」 ハルヒは校庭に描かれた不気味な模様を満足そうに眺める。こんな時だけ都合の良い理論を引っ張り出すなよ。 しばらく俺もそれを眺めていたが、ふと時間の経過に気が付き、 「そろそろ朝比奈さんが目を覚ます頃合いだ。解散しておこうぜ」 「わかったわ。あたしも目的が果たせたからとっとと帰る」 俺は再び朝比奈さんを担ぎ、ハルヒはすたすたと人に散々作業させた割に礼の一つも言わずに校門へと向かっていった。 が、途中で急に振り返ったかと思うと、 「ねえ、三年後みんなちゃんとそろったの?」 距離が離れてしまったため、月明かりだけではある日の表情はわからなかったが、その口調はやや不安げなものに感じた。 俺はできるだけ明るい声で、 「ああ大丈夫だ。お前は喜びを爆発させて、毎日楽しんでいるよ。三年後を楽しみにしておけ」 それにハルヒはほっと肩を落とした。そして、すっと空を見上げぽつりと言う。 「三年か……長いなぁ」 … …… ……… そんなこんなで目を覚ました朝比奈さんと共に長門のマンションへと行き、そこで三年間の時間凍結で現代に戻ってきた。 その辺りは俺の世界と変わりなく進んでいった。 帰った後、ハルヒにはこれから二つばかしでかい問題が待ちかまえていることを告げておいた。当の本人は、 情報が少なすぎるからそれが起こるのを待つしかないと言い、静観する構えを見せていた。 そして、期末テスト明けの部室。 ハルヒが意気揚々と夏休みに何をするか離している間、俺はぼーっと考える。 朝比奈さん(大)が言っていた二つの大きな分岐点。一体何なんだろう。未来に多大な影響を与える上に、 未来人が全く手の出せないこと。一つは冬のあの日の可能性が高い。しかしもう一つは? 俺はこの時それがもう目前に迫っていることなんて考えもしなかった。 ◇◇◇◇ 夏休みが直前に迫り、学校も短縮営業になった部室では、相も変わらずSOS団の面々が生まれた川に戻ってくる サーモンのごとく集まっていた。現在は夏休みのSOS団予定作成ミーティング中である。 ハルヒはホワイトボードを団長席の前に置き、延々と『夏休みにやろうと思うこと一覧』を書いている。 しかし、その量がまた凄いこと。これじゃ、夏休みの全部がつぶれてもおかしくないぞ。お盆は避暑と里帰りを兼ねて 田舎に戻るんだからキツキツなスケジュールは勘弁してくれ。 ――だが、以前から少しずつ感じていたハルヒに対する違和感がここに来て、さらに拡大してきている。何だ? 俺は一体何に気が付いているんだ? 全く自分の心の内が読めないってのも嫌なもんだ。 一通り書き終えたハルヒは、ぱんぱんとホワイトボードを叩き、 「さて、夏休みと言ってもSOS団に休みなんて無いわ。どうせキョンみたいなぐーたらタイプはガンガンに効かせた クーラー部屋でさして興味のない甲子園の生中継を判官贔屓で負けている方を何となく応援するなんていう 無駄極まりない過ごし方をするに決まっているんだから。でも、そんなのは却下よ却下! 充実して二度と忘れないくらいの 夏休みにするんだからね!」 全く元気満々な奴だ。しかし、俺を使った例が適切すぎるぞ。確かに受験勉強とかしていなかった夏休みの過ごし方は ずっとそんな感じだったからな。人の生活を密かに除いたりしていないだろうな? 俺はすっと古泉に視線だけを向けて、 「お前たち――機関とやらは何かたくらんでいないのか? ハルヒの退屈を紛らわせるぐらいに、孤島への旅行パックぐらい 持ってきそうだと思っていたんだが」 俺の世界だと古泉の方からハルヒに進言していたわけだが、今のハルヒの様子から見てどうもそんな雰囲気じゃない。 やっぱりこの辺りで際は出ているか。 が。 「全く……たまにあなたと話していると、本当にあなたが涼宮さんに関わらない純正のESPをもっているのかと 疑いたくなりますね」 げ。 心の中で舌打ちした俺だったが、古泉はそれに気が付くわけもなく、 「あなたの言うとおり、涼宮さんの好みそうな孤島への旅行がついさっきまとまったところだったんですよ。 ただし、涼宮さんは涼宮さんなりに予定を考えてきているみたいでしたから、それとかち合わなければ言うつもりでした」 そう言いつつじーっと俺の方に好奇心を込めた気色悪い視線を向けてくる古泉。 いかんいかん。危うくこんなどうでも良い場所でヘマをやらかすところだった 俺は首筋にたまった汗を乾かそうと、襟首をぱたぱたとさせながら、 「いんや、孤島で事件なんてハルヒが望みそうなところだったからな。ただの推測だ。それに本当にそんなパワーを持っているなら 今頃宝くじや競馬で大もうけして学校なんぞとっくに辞めている」 「それもそうですね」 俺の言葉に、古泉は疑惑からインチキスマイルへと表情を変化させた。さらにハルヒがこっちを指差し、 「こらそこ! なに会議中におしゃべりしているのよ! そんな不真面目な態度を取っていると旅行中は永遠荷物持ちの刑にするわよ!」 「これは失礼しました」 古泉は大仰に頭を下げる。一方の俺はあごに手を乗せたまま、やっぱり何か引っかかるハルヒの態度に困惑していた。 ええい、もどかしい。 ハルヒは腕を回しながら、山登り・海水浴などの大イベントを手で叩きながら、 「こういうのはね、最初が肝心なのよ! つまり夏休みの初日! これがうまくいくかどうかで、全休日が上手く過ごせるか 決まると言っていいほどだわ。そんなわけで、当然強烈なものを一発目に持ってくるのが当然ってわけ。 そうね……海水浴なんてどう、古泉くん!」 「大変よろしいかと」 「何かやる気なさげねぇ……じゃあ、みくるちゃん! 山登りなんてどう? 今の時期は暑いけど、高いところは 眺めも良いし涼しくて良いわよ。みくるちゃんは汗でいろいろ大変でしょ?」 「ふえ? ええっと……確かに汗の処理は大変ですけど、その……ちょっときつそうで……あ、でもいいですよ。 涼宮さんがそこに行くならついて行きます」 「ああもう……そういうこと言っているんじゃないのよ。んじゃ、有希! 読書ばっかりして身体中に文字列がしみこんでいるんじゃない? 温泉に行ってそれを一旦排出するってのもいいわよ。どう?」 「わたしは構わない」 「かー! もー!」 ハルヒは心底いらだったように頭頂部の髪の毛を掻きむしる。何をそんなにかりかりしてんだ。それになんで俺には聞かないんだよ。 俺の突っ込みも無視して、ハルヒはまた次々と案を俺以外の団員たちに出していく。 しかし、元々ハルヒのそばにいるのが仕事みたいな連中だ。ハルヒがそこに行くと言えば、どこだって付いていく。 決して反論や代案を出したりはせずにな。こればっかりは俺の世界でもまだまだ改善されていない部分だ。 だが……ハルヒの行動に対する違和感が俺の中でさらに増大していった。このレベルになってくるとさすがの鈍い俺でも 気がつき始めた。理由は知らんが、ハルヒは焦っている。夏休みが終わるなら時間がないと焦る気持ちもわかるが、 まだ始まってもいない夏休みの予定表作りになんでだ? エスカレートし続ける痛々しさにさすがに見かねた俺は、 「おいハルヒ」 「それならハイキングって言うのはどう!? その辺りでいい場所があるのよ」 「おい」 「あ、宝探しならみんなワクワクしない? 鶴屋さんの家は昔からあるみたいだし、古びた蔵とかあされば宝の地図ぐらい――」 「おいハルヒ。ちょっと落ち着けよ」 俺は自分の席を立ち上がり、ハルヒの肩を叩いて暴走状態を止めにかかる。直にハルヒに触れて初めて気が付いたが、 全身にかなりの汗を掻いていた。顔にも無数の汗の粒が浮き、ハルヒ特有のオーバーリアクションで頭を揺さぶったせいか、 まるで風呂上がりで髪の毛を放置した状態みたいだ。一体どうしたってんだ。 ハルヒは俺を無視して、また何か言おうとして――すぐに口をつぐんだ。そして、しばらく沈黙を保った後、 少しだけうつむいて団員たちから視線を外すと、 「……ごめん、何かちょっとテンパってた」 そうぽつりと言うと、顔を洗ってくると言って部室から出て行ってしまった。本当にどうしたんだ一体。 古泉が少々心配そうに、 「どうしたのでしょうか? 最近もちょくちょく感じていましたが、涼宮さんの様子がおかしいですね。 特に夏休みが近づくほどにその度合いが強まっているように思えます」 「何だ、閉鎖空間も乱発状態だったりするのか?」 「いえそれはないんですが……何なんでしょう」 ハルヒの精神分析担当の古泉もお手上げか。ん、何かまたちょっと引っかかったぞ。ええい、どうして俺の頭は 断片ばっかりキャッチするんだ。粉砕した野球ボールの破片を取っても意味無いぞ。 「涼宮さん、確かにちょっとおかしいですね……あのあの、あたし何かまずいこととかしちゃったんでしょうか?」 オロオロし始める朝比奈さん。……何だか少しわかってきた気がする。 「…………」 長門は読書こそ止めていたが、無言のまま俺の方を見つめていた。なんとなーく理由が…… ………… ………… ああ、そうか。そういうことか。良く気が付いたぞ、俺。 俺は団員全員を順次見回していくと、 「ちょっと聞きたい。みんなハルヒが言っている夏休み初日にどこかに行くのに反対か? ハルヒは今いないから正直に答えてくれ」 「涼宮さんが行くという場所へはどこにでも」 「あたしも涼宮さんと一緒に」 「そう指示されるのなら」 古泉・朝比奈さん・長門の順に答えが返ってきた。全くハルヒがいらだつ気持ちもわかるぜ。 「そうじゃなくてだ。みんなの意思――つまり宇宙・未来・超能力とかそんなの関係なしにハルヒと一緒に 夏休みを過ごしたいのかと聞いているんだよ。組織とかそんなのはこの際無視して答えてくれないか?」 俺の呼びかけに、朝比奈さんと古泉がお互いを見つめ、長門はじっと俺を見たままだ。 やがて、朝比奈さんが手を挙げて、 「あたし、それでも構いません。ただ運動は苦手なので、山登りとか体力を使うのはちょっと……」 次に古泉。 「僕としましては、自分のプランを用意したこともありますので、それを推したいですね。おっと組織の都合とかではなく、 これには僕の仲間も加わる予定なのでそれなりに楽しめるはずです」 最後に長門。 「読書が出来るのなら」 そうだよ。それでいいんだ。 俺は手を置いて、 「だったらハルヒにそう言ってやれ。それだけであいつの違和感は消えるはずだ。ただあいつはみんなと一緒に遊びたいだけなんだ。 ハルヒをそんな特別扱いした目で見ないで、普通のSOS団の団長として見て欲しい」 ハルヒはただみんなを楽しませることに必死なんだ。でも、肝心の団員がハルヒの顔色をうかがっているばかりで、 本当に楽しんでくれているのかわからない。ひょっとしたら無理やり付き合わせているだけなんじゃないか。 恐らくハルヒはそんな疑念があるのだろう。やれやれ、一方的にこっちを引っ張り回すウチの団長様とは大違いなデリケートぶりだ。 まあ、ここの団長ハルヒは何度も喪失感を味わって、二度と失いたくないという気持ちが強いせいで、そんな状態になっているんだろうが。 事実、俺も一度失って以降SOS団に対する執着みたいなものは大きく変化したしな。 俺の主張に、古泉が感心したような笑みを浮かべて、 「なるほど。確かにその通りです。わかりました。涼宮さんが戻り次第、僕の方から孤島への旅行を提案してみます。 SOS団は一人で作られるものではありませんでしたね」 「あ、あたしもそれで良いです。そっちの方がいいです」 「異論はない」 朝比奈さんと長門も同意した。 ほどなくして、顔を濡らしたハルヒが戻ってくる。俺はそそくさと自分の席に戻る。 代わりに古泉が立ち上がり、 「涼宮さん、言うのが遅れて申し訳ありません。実は僕の友人からちょっとした誘いがありまして――」 古泉の孤島招待に、ハルヒが全力で頷いて100Wどころか核爆発の熱球のような笑顔でOKしたのは言うまででもない。 ああ、あとついでに古泉をSOS団副団長に任命したことについてもな。 その日の放課後、どういう訳だか長門・朝比奈さん・古泉は用事があるからと言って別々に帰宅して、 俺とハルヒだけで下校することになった。 「孤島よ孤島! 古泉くんから持ってきてくれるなんて思ってなかったわ! ようやくSOS団も一丸となりつつあるわね! あー、もう待ちきれないわ! 早く出発日にならないかしら!」 古泉からの提案がそんなに嬉しかったのか、帰りになってもまだハルヒのテンションは爆発モードのままだ。 このハルヒにはあの必死さが全くなく、違和感なんてみじんも感じない。ようやく元に戻ったようだな。 「古泉からの意見がそんなに嬉しかったのか?」 「もっちろんよ! だってみんな今までただあたしの言うことに付いてきていただけなのよ? 初めて自分から意思を 示してくれたんだから嬉しいに決まっているじゃない! なんていうか、初めて意思疎通が成り立ったって言うか……」 ――ここでハルヒは少し声のトーンを落として―― 「SOS団を作ってからずっと不安だった。みんなそれぞれの目的だけで一緒にいてくれるんじゃないかとか、 実は嫌々ついてきているんじゃないかって。でも、今日初めて意思を示してくれて、そうじゃないってわかった。 夏休みでばらばらになって、二学期になったら疎遠になっていたっていうのが一番怖かったのよ」 ハルヒには少々悪いが、古泉の孤島はひょっとしたらその組織絡みの可能性があるから何とも言えないんだけどな。 これについては言わないでおこう。それにハルヒに意見を言ったという点が重要っていうのもあるし。 夕焼けに染まったハルヒは少しうつむき、 「あたしはもう絶対にみんなを離したくない。絶対にこの世界を成功させてみせる。組織のためにとかそんなんじゃなくて 純粋にみんなで遊んで楽しめるようになりたい。そうすれば――きっと何もかもがうまくいく気がするから……」 そうだな。きっとみんなで楽しく過ごせる世界が作れるさ、きっと。今までそのために沢山のものを犠牲にしてきたんだ。 にしても、本当に団員を思いやっているんだな。今の内に爪のアカをほじらせてくれないか? 元の世界に戻ったら、 ウチの団長様の茶に混ぜておくから。 だが、ここでハルヒはうつむいたまま立ち止まると、 「ただ――」 そう何かを言いかけた――が、すぐに頭を振って、 「ううん、なんでもない」 そう言ってまた歩き出した。 ……まだ何か不安があるんだろうか? ~涼宮ハルヒの軌跡 SOS団(後編)へ~
https://w.atwiki.jp/ws_wiki/pages/3752.html
autolink SY/WE09-14 カード名:お花見 ハルヒ カテゴリ:キャラクター 色:赤 レベル:2 コスト:2 トリガー:1 パワー:10000 ソウル:1 特徴:《団長》?・《SOS団》? 決まってるでしょ!ほら レアリティ:R illust.- 初出:コンプティーク 2009年5月号 10/12/28 今日のカード。 新しいタイプのレベル2バニラ。 2/2でありながらソウルが1しかない分、“漆黒の聖剣”セイバーやソニックフォーム フェイトのようなデメリットなしにパワーが10000になった。 同タイトル内には特徴がまったく同じの2/2バニラ、クラッカー ハルヒがいるので、パワーとソウルのどちらを重視するかで評価は異なってくるだろう。 水着のハルヒのCXシナジーでの疑似チェンジでレベル1から出せれば、バウンスされない限りはレベル1帯での局面を有利に運べるため このカードを採用するならあちらも是非採用したいところだが、ハルヒの赤のCXシナジーは他にも優秀なカードがあるので 他のカードとの兼ね合いで頭を悩ませるかもしれない。 ・関連カード カード名 レベル/コスト スペック 色 備考 水着のハルヒ 1/0 5000/1/0 赤 疑似チェンジ元
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4822.html
そして公園へと戻った俺は、別れ際の朝比奈さんの言葉を思い出して切ない気持ちを抱いていた。 ……いつかまた会えるといいな。あさく――、 「あ、先輩おかえりなさいっ。朝倉って人はどうでした? フフ、ちゃんとガツンとかましてきましたよね? 先輩を傷つけるような悪い人は……って、」 俺が唖然とした表情を貼り付けているのを見た朝比奈みゆきはポカンと、 「どうしたんですか? 呆けた顔しちゃってますよ?」 ……涙が出そうになった。 なぜ今まで気がつかなかったのか。そうだよ。この声と、この髪の色は――。 「――いや、朝倉は悪い奴なんかじゃなかったよ。とても人思いの奴で、良い奴だった。……ホントに、ありがとうな」 「ほえ?」キョトンとした後、「フフ、おかしな先輩。なんでわたしにお礼なんて言うんですか?」 「あ、いや、すまない。……なんとなく、な」 「んー、今度は謝るなんて、やっぱりおかしな先輩っ」 カラカラと笑う朝比奈みゆき。いや――お前は、朝倉だったんだな。 俺が輪廻転生という仏教思想を何ともなしに感じていると、 「こんにちは涼宮さん。古泉一樹です、よろしく」 「……あなたが超能力者なの? よろしくね」 古泉とハルヒが挨拶を交わしていた。幼いハルヒは俺をチラリと見ると、 「ふうん? 古泉くんって言ったっけ。あなたも中々カッコいいじゃない」 ハンサム仮面がハンサムだってことは否定できないが、惚れるなよ。 「なによ? もしかしてやきもち焼いてるの?」 「焼くか」 とは言いつつも、思えばこのハルヒが古泉に一目惚れする可能性も十分あったんじゃないかという考えが浮上してきた俺は、何となく複雑な心境になってしまった。 なぜそんな気持ちになったのかを考えようとして即中止したところで、 「……どうやら、万事上手いこと進んだようですね」 古泉が小声で囁いてきた。俺は、 「ああ、てゆーか古泉。お前は一体何をやってたんだ?」 「僕は……そうですね、説明の前に、一つ話をしてもよろしいでしょうか?」 余計な話が増えるのはご免だがな。と言うと古泉は笑って、 「人の人生を時間平面の連続という観点で捉えれば、それはまるで自分の物語が書かれていく一冊の小説みたいだとは思いませんか? そして僕は、長門さんにあなたの小説を覗いてきてもらったのです。僕の行動を端的に言い表すならばそういうことですね。もしかしたらこのことが、長門さんが読書家である理由となったのかも知れません」 俺の小説? 自叙伝を書くと言ってたのはお前だし、俺は日記を書くこともしちゃいなかったが。 という疑問が生じたが、まあ、何はともあれ結果は出たんだ。よく話は掴めないがまあいいだろ。考えるのも面倒だしな。 「それなら僕も助かりますが」 俺は微笑を湛えた古泉から周囲へと意識を移行させる。すると、 「あれ? 長門おねえちゃんは? まだ帰ってきてないんですか?」 キョロキョロと周囲を見渡す朝比奈みゆき。朝比奈さん(大)は、 「……長門さんも、そろそろ帰ってくるはずよ。安心してね」 ……すると牡丹雪のような淡い光の結晶が、一縷の光とともに複数舞い降りてきたかのような幻想的な模様が映し出され始めた。 そして収束した光が一気に放出されたようなまばゆい光の後、そこには、長門の姿が――。 「……て、眼鏡付きなのか?」 意表をつかれた俺に古泉が、 「……すみませんが、少々目をつむって頂いてもよろしいですか?」 いきなり妙なことを言いだした。よもや先程のドラマティックな光景に刺激されて、誰彼構わず口付けでもしたくなったのではあるまいな。そういや、前にもこんなことを言われた覚えがある。まあ、そのときはハルヒの精神の中へと飛び込む準備のためだったのだが。 「そう怖い顔をなさらずに。キスなどしませんよ。雪山での遭難の際、僕の部屋に入ってきたあなたの行動にかなり背筋を冷やした経験もありますので、僕にそちらの気はナッシングです」 「あたりまえだ」 と言いながら俺は古泉の言葉に従った。理由を聞く暇があったら、その時間を目をつむることにまわした方が効率的だからな。唇を狙っているわけでもなかったし、それくらいの要求なら何も言わずに受けてやるとも。 すると古泉は俺の頭にちょんと触れ、それはまるで俺の精神を引き抜いた際のような所作だったが、 「いえ、虫が止まっていたのでね。振り払っただけですよ」 まるで嘯くようなスマイルを浮かべて古泉が説明し、俺は古泉を横目に再度長門の方へと視線を移した。 そして長門はゆっくり眼鏡を外すと、 「……長門おねえちゃんおかえりなさいっ」 もはや突進としか言いようのないスピードで飛び込んできた朝比奈みゆきの抱擁を受けた。 「おかえりなさいっ」 朝比奈みゆきは二度歓迎の言葉をかけると長門の顔を覗き込み、 「良かった。この時代の長門おねえちゃんの雰囲気だ。フフ、うれしいです」 長門はニッコリと笑う少女の顔を見つめ、そして、雪解けのようにやわらかな笑みを浮かべて――ゆっくりと、帰還の挨拶をみんなへと向けた。 「……ただいま」 ……この笑顔を見るために、どれほど遠回りをしただろうか。 だけど、得たモノだって多いんだ。その中でも……この世界での長門の笑顔はとびっきりだろうな。 ――おかえり、長門。 そして、みんなが俺と同じような言葉をかけている中、 「長門さん、おかえりなさい。……良かった。帰ってきてくれて」 この朝比奈さん(小)の言葉に長門は顕著な反応を示し、朝比奈さんを自分のもとへと呼び寄せた。 そして己の右手を差し出すと、 「あなたに施された処理を解除する。掴んで」 「あ……そうでしたね。いけない、すっかり忘れちゃってました」 長門は朝比奈さんから差し出された手を引き寄せると、長門流のプログラム注入法である噛みつき行為にでた。まったく、これが健全だと思える日が来るとはね。なんせ喜緑さん流がちょいと衝撃的過ぎだったからな。 そう思いつつ喜緑さんの緩やかな笑顔を見ていると、 「忘れ物ならば、長門さんにもあるはずですよ。どうぞこれを」 古泉はやおら長門に近づくと、そういえば俺が古泉に渡していた長門の小説をすっと手渡した。 長門はそれを受け取ると文章に目を配り、ひとときの間をあけるといつもの無表情が映る顔を上げ、片腕でそれを胸元へと運んだ。その動作は長門が本を抱える際のものと一緒だったが、俺が先程のはまた意味合いが違うと感じたのは気のせいではないだろう。間違っても、もう捨てたりなんかするんじゃないぞ。 ――と、今までずっと長門が抱えていた問題も、これにて一応の終幕を迎えたことになるだろう。 長門の物語といえば、あいつの小説にはまだ意味的に残されたページがある。 そう、三枚からなる小説の第一ページ目だ。そこに登場する幽霊少女……前は朝比奈さんのように感じたが、今では――これも何となくだが――朝比奈みゆきのような気がする。そして他の二枚の内容は古泉曰く今回の出来事に繋がっていて、また、朝比奈さんの小説にさえも今回との関わりを感じたので、このページが無意味なものであろうはずがない。一体なんの意味があるのだろうか。 それに、異世界の問題だってある。これの解決の糸口も長門が握っているのだが……。 朝比奈みゆきからじゃれつかれている長門の姿を見ていると、せめて、今だけは……誰も口を挟もうなんて考えやしないのさ。 ふと、俺は隣に顔を向けてみる。 そこには長門を見つめるハルヒがいて、その表情からはどこか羨ましそうな感情が見受けられた。 そんなハルヒの姿を見た俺もまた、再度長門へと視線を固定する。そして――――、 「……なあ、ハルヒ」 「なに?」 「もし、自分の夢が何でも叶っちまう能力があるとしたら……お前はそれを欲しいって思ったりするか?」 ハルヒは顔をこちらに向けて俺と目を合わせた後、また正面を向くと、 「そんなの、誰かがくれるとしてもいらないわ」 またもやハルヒらしくないことをハルヒは言いだした。 「それは反骨精神からきてるのか? どんな願いも叶う力なんて、古今より世界中が欲しがってる代物じゃないか。フリーマーケットで大量に他人の要らんものを買い込むようなお前を知ってる俺としちゃあ驚きだ」 ハルヒはふんと鼻を鳴らすと、 「そんなんじゃないわよ。……だったら、あんたはどうなの? 欲しい?」 「いらねえな」 「なんで?」 なんで……と言われても、それは俺に必要のないものだし、そんなもんが俺に付加されちまったら俺じゃなくなっちまう。だからいらないのさ。 ふうん、とハルヒは呟き、あたしはね、と自分の理由を語り出した。 「さっきの出来事もそうだけどね、こんな人いなくなっちゃえばいいって思うようなことがあっても、その人を消すことは間違ってるってあたしは理解してる。だけど、そんな能力をもったあたしがそう思っちゃえばその人は消えちゃうのよ。だって、消えないでほしいっていうのはあたしにとって嘘でしかないんだもん。つまり何が言いたいのかって言えばね、あたしは人が自分を好きでいるためには、自分に嘘をつくのも大切なことなんだって思うの。だから、嘘がつけなくなるようなそんな能力なんていらないってわけ」 「……へえ」 「なによ?」 自分から聞いといて興味なさそうじゃないとハルヒに言われてしまったが、俺はハルヒの言葉に素直に感嘆していたのだ。 ……そして、一つ気になったことがある。 灰色の、憂鬱な空。――閉鎖空間。 ハルヒがそんな無人の世界を作っちまうのは……その能力で、誰かを消してしまわないようにするためなのだろうか。 「……やっぱり、お前はハルヒなんだな」 ハルヒはお手を求められたときの野良犬くらい何言ってんだといった表情を浮かべているが、これは褒めてるんだぜ。他の奴がこの台詞を言うときは決まってハルヒの素行に辟易してるときだが、俺のこの台詞には、やっぱりハルヒって奴は誰よりも常識的で、人のことを考えることが出来るやつなんだなって意味がこもっている。 それに、自分に嘘をつくってのも大事だって言ってくれるとさ……俺も、今までの自分を肯定できる気がするよ。 俺とハルヒがそんなやり取りを交わしていると、 「もう少しゆっくりしていたいけれど……規定事項はまだ終わりではありません。涼宮さんも元の時間平面に帰らなければなりませんし、それに、キョンくんたちとはあとでまた文芸部室で話すことだってありありますから」 そして朝比奈さん(大)は面をハルヒへと向けると、 「……そろそろお別れの時間です。そして涼宮さんが元の時空に回帰する際、ここでの記憶を行動以前のものに戻さなければなりません。……ですが、涼宮さんが今回体験したことは世界の歴史として残ります。そして、それは少なからずこれからのあなたの未来に影響を及ぼしてしまうの。それは、中学生の涼宮さんに辛い体験をさせてしまうことでもあります。だけど――」 「……みんなが待っててくれるんでしょ?」 ハルヒは申しわけなさそうに言葉を繋げる朝比奈さん(大)を遮り、 「高校生になったら、あたしがみんなを集めてSOS団を作るんだって聞いたもん。あなたたちにまた会えるのなら、あたしは何だって我慢出来る。朝倉って人との約束だってあるし、どんなことがあってもへっちゃらよ」 ……ごめんなさい、と言う大人の朝比奈さんに「それより、聞きたいことがあるんだけど」とハルヒは尋ね、「もしかして……あたしには、どんな願いでも叶える力があるの?」 不安げな少女に対し、教師風お姉さんはどうぞ安心してくださいと言わんばかりの笑顔を作り、 「今の涼宮さんにその力は生まれていません。その力は、あなたが元の時空で普通に過ごすようになって発生しますから」 「そうなんだ。……よかった」 よかったというのはどういった意味だろうか? と俺が疑問に思ったのと同時に、 「あなたに渡しておくものがある」 長門がいつの間にか俺の傍に立っていて、何か俺に渡すと言ってきた。なんだろう。 「涼宮ハルヒの状態を修正するプログラム。あちらの時空間であなたが涼宮ハルヒに使用し、それによって涼宮ハルヒの世界への復帰を図る」 すると長門の手に握られていたメガネがぐにゃりと変形し、別のモノへと変化した。それがどんな物体なのかを伝えるのに詳しい描写は必要ない。 「……針か?」 あえていうなら一般的なまち針程度の長さと細さの針だ。長門はそれを俺の手のひらにスッと落とし、 「先端にプログラムを塗布してある。今回は射出装置を必要としないと判断したため、この姿で創出した」 「…………」 なんというか……まあ、出来すぎている感も否めないな。 「眠り姫……ね」 俺はそう呟き、長門特製針は制服の衿下に刺して携帯することにした。 そんな俺の行動を確認した朝比奈さん(大)は、 「では、これからみゆきと一緒に過去の公園へと向かって下さい。みゆきちゃん、またお願いするね」 朝比奈みゆきの元気な返事の声が上がり、俺とハルヒは活発な少女の後に続く。 「ちょっと待って下さい」 ――と、急に声を出したのは古泉だ。古泉は歩き出した俺たちを呼び止めると、 「すみません。実は、今でなければ言えないことがありましてね。……涼宮さん。不躾なお願いかもしれませんが、あなたの能力で僕の願いを一つ叶えていただきたい。その僕の夢は、今この期を逃してしまえば実現することなどありえないのです」 「え……?」 古泉のイキナリな頼み事に、中学生のハルヒは微量の困惑を覗かせた。 「古泉? 何言ってんだ。お前らしくもない」 謙譲礼節の塊のような奴がえらく独善的な理由で主張している。ハルヒに願い事を叶えて貰おうなんざ、俺は自分でも驚く程考えやしなかったというのに。 呆れた表情を隠さない俺に古泉はイタズラな笑みを向け、 「むしろ、これは僕らしさを得るための願い事なのですよ。……では涼宮さん。どうか、これから話す僕の願いをお聞き届け下さい」 そう言うと、古泉はまるで主君から仕事を仰せつかった時の執事のように片手を胸元に吊り下げて頭を垂れ……粛々と言葉を連ねていった。 「――もし、あなたの心が憂鬱に染まり、あなたの世界が閉じられるようなことが起こってしまったとき……僕、そして僕と志を等しくする者たちにそれを打ち砕く力を与え、そこからあなたを救い出す騎士の役割をお与えください。……それがあなたに望む、僕の願いです」 ハルヒはキョトンと、 「……正義のヒーローってところ? よく分かんないけど……わかった。頑張ってみる」 という話が掴めない場合の常套句で古泉に返事をしていたが……何となく、俺には古泉の行動の意味が掴めていた。 古泉の超能力集団。それに属する人たちはみんな、子供の頃の古泉と同じ夢を持っていたのだ。 そしてこの古泉の言葉によってハルヒがそれを叶え、そして生まれたのが……『機関』というところだろう。 「……お前がナイトなら、ルークは長門、ビショップは朝比奈さん、ポーンは俺ってところだな」 何人分もの雑用を下っ端として受ける俺はまさにポーンだ。 「ふふ。そういうことになるでしょうね。ですが、クイーンの傍に座すのはあなたの役目ですよ」 古泉は俺のワニ目から逃れるようにハルヒへと向き返し、 「お引止めして申しわけありませんでした。それでは、三年後にまた会えるのを楽しみにしています。……お元気で」 こちらこそ、とハルヒは古泉の差し出した手を握り、そしてその二人の握手を最後に、俺とハルヒは朝比奈みゆきの運転するカメ型TPDDに乗って時の止まった公園へと向かったのだった。 「ところでさ、あんたには何か願い事ないの? 聞くだけならしてあげてもいいけど」 公園に着いてすぐハルヒがこう言ってきたので、俺は「庭付き一戸建てが欲しい」などとは言わず、 「そうだな。俺が子供の頃には宇宙人や未来人や超能力者と遊びたいって思ってたんだが……今はお前に、俺たちとまた会える日がくるまで待ってて欲しいって望む位しかないな。だから、それをお願いするよ」 夢がないとハルヒに言われてしまったが、俺にはそれで十分過ぎる程なのだ。 「まあいいけど」とハルヒは「じゃあ……今度はあたしの願いを聞いてもらう番よね」とか言い出した。別に構やしないのだが、俺がハルヒの願いを聞いたところで、何にも…………。 「ん、そうだな。是非聞かせてくれ」 そういえば、それが異世界の問題の答えに繋がるかもしれないんだった。これを聞かないわけにはいかないだろう。 するとハルヒは、不意に、どういった顔をしたらいいのか分からないときに作る仏頂面を浮かべ、 「――あたしね、やっぱり今日の出来事って夢だったんだって思うの。そしてあたしは今から目覚めることになるんだけど……白雪姫や眠り姫が起きるためにはさ、必要なことがあるじゃない? だから……」 ボッという音が聞こえた気がする。明らかにハルヒは顔を真っ赤にして、うつむき加減にボソボソと、 「……キス」 と言ったがちょっと待て。ここでそうなると、俺は元の時間に戻ってからも強制的にそれをやらされるハメになっちまうんだ。俺はその強制的というのが好かん。っていうか、突然何を言い出してるんだよお前は。……マジなのか? と、眼前のハルヒは慌てふためくという言葉をあらん限り体現しながら、 「――ち、違うわよっ! お別れするときの単なる欧米的挨拶よ! それに、あたしを思いっきり抱き締めてきたあんたにも責任あるんだからね!」 「な、」 ……見に覚えがないわけではない。思い返せば、朝倉からハルヒを守るときに無我夢中でそんな行為に及んじまったような気がする。 いや待て。だからってキスはないだろう。それはハルヒの言う無茶とはまた別系統の無茶だ。そういうのを言い合う関係がなんだか知ってるか? 教えてやる。爽やかカップルだ。 「あのな、俺は帰ったらまたお前と顔を合わすんだぞ。もしかして、俺を混乱させるのが目的なのか?」 ぐ、っとハルヒは言いよどむと、 「だって……また会える保障なんてないじゃない……。それに、あたしに能力が生まれちゃったら……キョンを……」 「俺を、なんだ?」 「う……。何でもないわよっ、馬鹿キョン!」 それっきり、ハルヒは開き直ったようにプイとそっぽを向いてしまった。 それをどうにかしようにも俺にはハルヒの言っていることが殆ど理解出来ないので、対処の方法など見つかりやしない。何処かにハルヒの言動に潜む謎を解き明かしてくれるやつが居ないか探さないとな。もちろん無償で。 だが。 目の前でぶすくれているハルヒが、この公園で最初に見つけた時とは明らかに違うというのは俺の目から見ても明らかだ。 どう違うのか、というより……このハルヒこそ、俺の知っているハルヒなんだよな。 「……ハルヒ」 俺の呼びかけに、ハルヒは不機嫌そうに横目で俺を見る。 「お前は静かにしてるより、そうやってる方が可愛らしいぞ」 「へ?」 俺はハルヒへと歩み寄り、目の前の、いつぞやの閉鎖空間のときよりも小柄な肩に手を掛ける。状況が飲み込めていないハルヒは、自分の肩に置かれた手、そして目前の俺の顔という順番で視線を移動させ、何かを言いたいが声にすることが叶わないといった様子で俺を見つめる。俺はそんなハルヒに、 「そろそろお別れだ。今日は色々とすまなかったな、なにぶん急な呼び出しだったし、お前を危険な目にだってあわせちまった。けど安心してくれ。俺たちはまた絶対に会える。なんなら、今からその約束をしたっていいくらいだ。……だからハルヒ。少しだけ目をつむってくれないか」 「あ……」 恐る恐る俺の話を聞いていたハルヒは、俺の瞳を見つめると体中の力を抜き、緩やかにその目を閉じた。 俺はそれを確認すると、制服に忍ばせておいた針を無音で取り出し、 「……すまないな。眠り姫は閉ざされた城の中で目覚めるんだ。お前には、高校に入ってすぐそのときがやってくる。そして俺はかならずそこに行くから――それが約束だ。……またな、ハルヒ」 そして俺は長門特製針をハルヒの手の甲につけ、見た目的にも眠り姫となった少女を公園のベンチへと寝かせた。俺はその幼い顔に七夕での出来事を想起しながら……みんなの待つ、俺の世界へと帰還した。 「どうです? お別れのキス位は済ませてきたのではないですか?」 帰還した直後、早速古泉の奴が何か言ってきた。なんのことかなあ。 「……もしやとは思いますが」 「するか。ハルヒだって言っても妹とたいして変わりゃしない年頃だし、それは違うだろ」 と言いながらも自分から古泉に意味ありげな反応をしてしまった手前、先程のハルヒとのやり取りをおおよそで説明してやった。すると古泉は健やかな笑顔を浮かべ、 「なるほど。つまり、あなたは涼宮さんに魔法をかけてしまったと」 「かけてない」 「いえ、身も蓋もない言い方であれば後催眠暗示のことです。以前閉鎖空間が世界と取り変わろうとした際、あなたは物語におけるお姫様の逸話になぞらえてそれを回避しましたね。しかし、何故その行為が突破口になり得たのか。それは先程のあなたが中学生の涼宮さんと約束をしたからで、それがあったからこそ王子のキスによって世界が開かれたのですよ」 「…………」 古泉の話を聞き、俺は谷口の話を思い出す。 あのハルヒは俺と再会する約束をしたが、世界が動き出したとき、ハルヒは約束した相手を忘れている。つまり、俺を知らないのだ。 だからあいつは誰かと会う約束をしているような気がしてもその相手が誰だかわからず、そのため、やってくる男たちを断らなかったのではないだろうか。この予測にもとづくならば、東中の眠り姫伝説もあながち間違いではなかったということになる。そして……、 「古泉。俺たちの世界のハルヒなんだが……本当に、宇宙人や未来人や超能力者の存在を知らないままで良いと思うか? なんてったって、それはハルヒの願いに違いないんだ。俺たちの都合でそれを叶えないってのは……ちょっと考えることだと思ったんだが、な」 俺は冗談など飛ばしていないにも関わらず古泉は何故か可笑しそうに、 「それは違いますよ。それらの存在と出会いたいというのはあなたの願望であり、涼宮さんが探していたのは、実は別の者たちだったのですから」 「どういうことだ?」 「中学生の涼宮さんが七夕の日に願ったことですが、あれは妙だとは思いませんか? あの願いを織姫や彦星に伝えたとして、涼宮さんは何を得るつもりだったのでしょう。それ以前に、願い事としても成立していません」 「……そう言われれば、不思議だな」 そして古泉は人差し指を空へ立てると、 「涼宮さんの願い。それは早く迎えに来て欲しいということであり、その相手とは、織姫や彦星、ましてや宇宙人でも未来人でも超能力者でもなく……王子であるあなたであり、長門さん、朝比奈みくるさん、そして僕だったのです。ですから、涼宮さんの願いは既に叶っているのですよ」 「ん……」 そうなると、中学でのハルヒの行動にも合点がいく気がする。 つまりあいつは俺たちと再開する日まで待っていられず、俺たちをずっと探し求めていたのだ。 そして見つからない相手、また会おうと約束した俺たちに対し……ハルヒはあの七夕の日、メッセージを送った。 『――私は、ここにいる』 「……じゃあ、ハルヒが中学時代、不思議を探して一人になっちまうのは……」 「ええ、僕たちのせいでしょうね。だから我々は責任を取らなければならない。僕たちとの出会いによって、彼女に望まぬ力を与えてしまったこと。そして、涼宮さんに孤独な時期を過ごさせてしまったことにね。そのためにやることは、いまさら言うまでもないでしょう」 「そうだな。……ところで古泉。俺さ、それにあたってSOS団の名前を変えようかと思うんだ」 「名称を……ですか?」 それはいかに、と聞く古泉に俺は言ってやった。 「――世界を大いに盛り上げる、涼宮ハルヒのための団。ってのはどうだ?」 実に結構かと、と古泉は笑顔を振りまきながら俺に同意し、あとは何かに満足したような面を浮かべていた。そんな目で俺を見るんじゃない、と言おうかと思ったが、俺はそれに気付かない振りをすることにした。 ――ここで思うことがある。 俺とハルヒとの出会いは、実のところ北校に入る前から始まっていたのだ。 ボーイミーツガールの物語。俺にとってそれは公園での憂鬱なハルヒとの出会いから始まり、先程の約束がアンドグッバイの部分にあたる。……そして、北校でアゲインを迎えるってわけさ。 そう。 こうして俺たちは出会っちまった。 しみじみと思う。この出会いは………… ――運命だと信じたい、と。 第十四章
https://w.atwiki.jp/haruhi_best/pages/32.html
涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 ループ・タイム 例えば、ひとりで留守番しているときだ。 一人きりの家で、ふと、何かの気配を感じて、不安になることってないか? 誰もいるはずもないのに、鏡を覗いていると、鏡の端を何かが横切ったような気がしたり、風呂に入っているときに、部屋で「ガタン」と音がして、「誰?」と間抜けな声を出してしまったり。 大抵の場合は、まず間違いなく気のせいで終わる。まあ、よくある事ってやつだ。 だが、SOS団の部室に、たまたま一人でいたとき、部屋のどこかから「ガタッ」と音がしたら、人はどうするだろう? 俺の場合は非常に簡単だ。 俺は読みかけの本を机に置き、そのままつかつかと部屋の隅にある掃除用具入れに近づき、バタンと扉を開けた。 「…………」 掃除用具入れの中には、制服を着たヒューマノイド・インターフェイスが、時期外れの贈り物のように、箒の間にちんまりと立っていた。 「…………」 俺と長門は三点リーダを共同作業で生み出しながら、完全に無言のまま向合う。 「…………何をやってるんだ、長門?」 俺の問いかけに、無言のままで掃除用具入れから出てきた長門有希は、裾のほこりをパタパタとはたいた。 「……時間のループによって、朝比奈みくるが時間遡行することはできない」 「それは知っている。何をやってるんだ、長門?」 「……だが、彼女がいる未来が実現するためには、いくつかのポイントでしなくてはならないことがある。例えば、空き缶の設置。亀の投下」 「それも知っている。何をやってるんだ、長門?」 「……そこで、朝比奈みくるのかわりに、私とあなたで行う」 「それは分かった。ところで、何をやってるんだ、長門?」 『ループ・タイム――涼宮ハルヒの陰謀――』 SOS団きっての読書愛好家であり、宇宙人の作ったインターフェイスであり、競馬をこよなく愛する馬主であり、ゲーム会社の学生社長でもある、長門有希の珍妙な行動に、最近さらに磨きがかかってきたようにも思える、二月のはじめ。 ハルヒがそのトンでもパワーをフルスロットルで全開にして、なぜだか分からんが起こしたSOS団の時間ループも、そろそろ一年になろうとしている。 このループの原因は何か? ハルヒはまたループを起こすのか? ループが解消されたとき、どうなるのか? 「分からないか、長門?」 「分からない」 今日、いきなり掃除用具入れから登場してくれた長門有希は、すでにいつものように、未来を見通す巫女さんスタイルに戻っている。 ちなみに、今日は長門以外にも、ハルヒ、朝比奈さん、朝倉の巫女さん姿が拝める予定だ。というのも、今日は節分で、豆まきのイベントを、SOS団の女子団員は、巫女さん衣装で行うからだ。 これを機会に、たっぷりと拝ませてもらおう。朝比奈さんや朝倉の巫女姿なら、ご利益は十分に期待できる。 まあ、ハルヒは古泉説なら神様なので、ご利益どころではないし、長門の場合は、出てくるのはご利益じゃなくて競馬の配当金だ。 などとくだらないことを考えていると、しばらく沈黙していた長門有希が言葉をついだ。 「涼宮ハルヒがループを行った意図は不明。涼宮ハルヒが時空改変を行ったと見られる時間には、私は図書館に居た」 たしか、春休みには入っていたはずだ。そこまでは、俺にも記憶があるからな。だが―― 「なぜか、最後のところの記憶が曖昧なんだよな……ハルヒの声を聞いた気もするし……」 「古泉一樹と、朝比奈みくるについては、記憶が消去されているので、確認のとりようがない。どちらかが涼宮ハルヒと行動を共にしていた可能性は否定できない」 確かにな。 「だが……私は一つの仮説を持っている。一年間、構築と検討を繰り返してきた結果、その仮説にたどり着いた」 仮説? 「その仮説が正しければ、このループは終わる。未来に接続がなされ、時間遡行が可能になるはず。ループが終わるため、私たちも二年生になる。おそらくは、このメンバーのままで」 「どんな仮説なんだ?教えてくれ、長門」 長門有希は、一瞬迷ったように言葉を切り、少し目を伏せた。 「……あくまでも仮説に過ぎない。だが、言語化するとあなたの精神に負荷をかけるかもしれない……でも、聞いて」 俺は頷いた。 「なんか、呆然とした顔じゃない。キョン、どっか体調でも悪いの?」 あ、いや、気にしないでくれ、ハルヒ。 すっかり巫女さんの衣装に着替えたハルヒが、心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。 ハルヒは時間のループについてなにも知らない。こいつには、長門の仮説がショックだったとは言っても仕方がないことだろう。 「ほら、枡。みんなお待ちかねだぜ」 「うん!いくわよっ、みくるちゃん、有希、涼子!!それー!!福はーうちっ、福はーうちっ!」 核爆発のごとく眩しい光を放ちながら、満面の笑顔で豆をばら撒くハルヒ。うむ、ポニーテールに巫女さんコスチュームも非常に似合っているな。箒を持たせてみたい。 ただいま、恒例の豆まきの真っ最中である。朝比奈さん、朝倉涼子、ハルヒの三人も巫女さんになって、SOS団みんなで、渡り廊下に豆まきをしに進軍した。 「ええい、それー、福はうちですぅ」 朝比奈さんも実に楽しそうに豆をまき、下に溢れかえる男子どもは、必死で朝比奈さんの御手が放った豆をつかもうと、不毛な争いを繰り広げている。 「福はうちー、福はうちー、キョンくん……次の枡くれる?」 「ほれ、朝倉」 神々しいまでの巫女さん姿の朝倉涼子の投げる豆は、女子たちのターゲットになっているらしく、女子たちはキャーキャーいいながら朝倉の豆を受け取ろうとする。相変わらず、女子に大人気だ。 ビシッ ビシッ 「痛っ、痛えーっ!なんなんだ、さっきからよっ」 谷口はさっきから、そのデコが射撃のターゲットにされているようだ。いうまでもないが、こんなピンポイント射撃ができるのは―― 「ターゲット・ロックオン……発射。……標的谷口の額に命中を確認。次弾装填……」 長門有希は、手のひらにのせた豆を、デコピンのように中指で弾いて、すさまじい速さで撃ち出している。 「長門、谷口になんか恨みでもあるのか?」 長門は、ぴた、と手を止める。 「私のことを押し倒そうとした――」 な、なにいっ、ゆるさん、ゆるさんぞ谷口!! 「――私のことを押し倒そうとしたあなたに、私が口付けをしようとして、二人の関係が決定的になろうとした瞬間に、忘れ物を取りに教室のドアを開けて、人の恋路の邪魔をした」 バシュッと、空気を切り裂く音。長門が、また豆を発射した。 おい、長門、それは逆恨みってやつじゃないのか。 「うわああああんっ!」 谷口が泣きながら逃げ出した。なんて哀れなやつだ……心から同情するよ。 「ホーミング・モード……追撃せよ」 やれやれ。 「はい、なんとか頑張って作ってきたけど……味はどうかな」 朝倉涼子渾身の作である恵方巻を、六人それぞれが手にもって、いっせいに同じ方角を向いて食べる。思えば、奇妙な行事だ。 地球の文化に詳しくない宇宙人が、ふらりと日本に立ち寄って、いきなりこの光景を見たら、一体なんだと思うんだろう?今度長門にでも聞いてみるか。 もぐもぐ。うん、うまい。実にうまい。さすがに朝倉は料理が上手だ。 ふと、俺は手を止めて、古泉を見た。 「……古泉、なにやってんだ?」 古泉一樹は、いつものニヤケた面ではなく、かつてないほどの真剣な表情で恵方巻を見つめていたが、おもむろに、手で、ぐい、と恵方巻をくの字に曲げた。 「マッガーレ」 くだらないことやってないで食べろよ、もう。 む、ハルヒ、まじまじと太巻を見つめて、どうしたんだ? 「キョンのより大きい……」 こんのアホッ、なにと比べてるんだ!!朝比奈さんと朝倉が真っ赤になってうつむいているぞっ! 「ふえ、だめです……こんなの恥ずかしいです……」 「うん……これ無理……恥ずかしいよ……」 赤くなって顔を背けては、ちらりと太巻きを見て、また赤くなって顔を伏せる、という一連の動作を繰り返す朝倉涼子と朝比奈さん。 ハルヒの言葉で何を意識したのか知りませんが、それは恵方巻ですよ。ただの恵方巻です。断じてただの恵方巻です。なにを恥ずかしがっているんです? 「カプ」 ほら、長門を見ろ、一口でぱっくりと―― 「チュプ、ジュル……ジュプ……」 口があんぐりあくのが分かる。長門、お前…… 「練習」 やれやれ。 みんなアホばかりだ。 翌日。 俺は長門と一緒に、一年前、朝比奈さんと一緒に、空き缶のいたずらを仕掛けた場所に行った。 缶も釘も金槌も、長門がきちんと用意してくれた上に、仕掛ける場所も、寸分違わず、きっちりと長門が指定した。うーむ、楽だ。 「しかし、これを蹴って怪我する人が、可哀想だな、つくづく」 長門は、コクリと頷く。 まあ、自分たちがやっておいて、可哀想もないもんだが。俺は腕時計の時間を見た。 「そろそろか」 六時十四分。 ロングコートにショルダーバッグ。元気をなくした男性がとぼとぼと歩いてくる。間違いないな。 「はぁ……」 ため息、空き缶を見る、そして振り上げたトーキック。一年前と同じだ―― パパパパパパパパパパンッ!! いきなり破裂音が響いた。 「うおあっ!?ぐ、ぐあああああっ!!」 男性が驚いて尻餅をつく。苦痛に顔を歪めて足を押さえているところを見ると、しっかりと捻挫をしたようだが…… 俺はゆっくりと後ろを振りかえると、皮一枚下で、必死に笑いを堪えているような、無表情の宇宙人を睨む。 「長門……何をしたんだ……」 「空き缶に爆竹を仕掛けておいた……こういうことは、楽しまなくては、損」 損とか得とかねーだろ!!なにやってんだ! 「……あなたは、私の仮説を聞いて以来、落ち込んでいる」 ……そんなことはないさ。 「SOS団のメンバーは、みな心配している。……私も」 ありがとうよ、長門。その気持ちは嬉しいさ。だが―― 「あなたを笑わせてあげたかった……それだけ、ごめんなさい……」 そういって長門はまつげを伏せる。悲しそうな表情でうつむく長門有希。 ええい、こんな顔をした長門に、文句が言える人間が存在するか?いるなら手をあげろ。俺に代わって長門に説教の一つでもしてやってくれ。 俺は、溜息を一つつくと、長門の手を引いて暗がりから出た。そのまま、苦しそうに呻いている男性に声をかける。 「だいじょうぶですか?……手を貸しますよ」 「え、ああ、ありがとう……くそ、誰がこんないたずらを……」 「手がこんでますね……さ、肩につかまってください」 俺の肩を借りて、哀れな男性はケンケンしながら歩く。 「仕事が行き詰っていて……」 すたすたと後からついてくる長門。 「クサクサした気分を晴らそうと、缶を蹴ったのが悪かった――」 「……自業自得」 長門がボソッと呟く。 「…………」 俺と男性は、なんとも言えない表情で長門を見つめ、二人で同時にため息をついて、顔を見合わせた。 「……あの娘、キミの彼女か?」 「ええ、まあ」 嘘だけど。 「そうか……大変だな」 大変です、実際。これは嘘じゃない。 男性は痛みを堪える顔に戻り、俺は心の痛みを堪える顔に戻った。 空き缶の悪戯を仕掛けた翌日には、みんなで「鶴屋山」に宝探しに出かけた。 かなり急な坂を、ハイテンションになったハルヒは、野うさぎが飛び出したら轢き殺されるんじゃないか、と思わせるような猛スピードで駆け上がっていく。 一方、俺と古泉は登るだけで息も絶え絶え、HPは限界寸前だ。 「ひえっ」とか、「ひゃうっ」とか声をあげて、さっきからつるつると滑る朝比奈さんを、朝倉涼子が後ろから支えてやり、長門有希はマイペースにうろうろと歩く。 というのも、長門は、手にした装置で宝を探している、という設定だからだ。 「ふえ、これで宝物の場所が分かるんですか……?」 朝比奈さんが疑問に思うのも頷けるほど、長門が用意したダウジングの道具は、安っぽく、かつインチキくさい。 なんたって、二本の針金をLの字に曲げて、ボールペンの軸にさしただけの代物だからな。製作者が俺であることは秘密だ。昨日の晩にこっそり家で作った。 長門は気にせず、ひょうたん石のある開けたところに出ると、とことこと辺りをうろついて宝物を探すふりをして、ひょうたんの形をした石のところで、つい、と針金をハの字に開いて見せた。 「うわあ、そこに宝物があるんですかぁ?」 朝比奈さんが目をまん丸にする。 「よしっ、古泉くん、堀りなさいっ」 アドレナリンが過剰に供給されているのか、闘牛のごとく興奮したハルヒの命令の下、古泉はシャベルを振るって穴を掘る。 「あなたは手伝ってくれないんですか?」 「掘るのはお前の得意技だろうが……それとも掘られるほうか?」 まあ、掘るほうですが……と古泉はまた穴掘りに戻る。 古泉がえっちらおっちら掘って、ようやく出てきた奇妙なオーパーツに、俺と長門を除くSOS団メンバーは、仰天して目を丸くしていた。 考えてみれば、SOS団を結成して以来、団として経験した、初めての不思議現象に近いからな。 だが、結局それは、下山したのち鶴屋さんに献上した。それが一番いいさ。もともと鶴屋さんのご先祖が埋めたものだしな。ハルヒも、掘り出すので満足したらしく、案外素直に頷いた。 穴掘りで完全にHPを使い果たし、息絶えた古泉がピクニックシートに倒れこむのを、心配そうに横目で眺めながら、朝倉涼子が手製のお弁当を広げる。 朝比奈さんが自慢のお茶をポットに詰めてきており、昼食と相成った。 「うまいっ、めちゃくちゃうまいわっ、涼子!こんどお料理教えて欲しいぐらいよ!!」 「そ、そお?ありがと。……おいしい?キョンくん」 ああ、うまいよ。全身の細胞がその身を震わせ、美味いと絶叫しているのが分かる。 途端にハルヒが、ぷっとふくれっつらになる。 「こら、キョン!あたしがお弁当作ってきたときは、そんなに褒めてくれなかったじゃない!!」 「お前のはなあ、なんか、こう、力の抜きどころがないんだよ。全部がメインディッシュのフレンチみたいなもんだ……」 「ハンバーグと、から揚げと、とんかつだったら、もちろんとんかつがメインよ!当然だわっ!!」 やれやれ、昼飯でそれを全部食わされる俺の気持ちにもなれ。おかげで午後の授業は胃がもたれて仕方なかった。 胃もたれなどとは永久に無縁であろうハルヒと長門が、見る見るうちに弁当を平らげ、一同、お茶。 鶴屋山のピクニックは、こんな感じだった。また天気がいいときに行きたい。 土曜日。 SOS団の不思議探索を招集し、いつものように長門の呪文で、組み分けの爪楊枝を、俺と長門になるように操作した。俺と長門は、パンジーの花壇に向かう。 落ちている記憶媒体を、花壇から拾い上げ、一年前に朝比奈さん(大)の指定した住所に送る。 いや、ほんとにそれだけだ。それでおしまい。 というのも、あの未来人の野郎――便宜的に、パンジーさんと呼ぶことにしよう――が現れて、先に記憶媒体を拾ってひらひら見せびらかしたり、朝比奈さんと俺に向かって、「あんた」呼ばわりする、なんてことがなかったからな。 くそ、あの野郎の顔を思い出したら、なんだかむかむかしてきた。非常に腹立たしい。 だが、パンジーは、結局最後まで現れなかった。 「ループした時間は、未来との通路を遮断されている。去年の八月に経験した通り。だから、朝比奈みくるの時間同位体が現れることもない。別の未来人についても同様」 やれやれ、朝比奈さんも可哀想に。未来との通路を遮断されたってことは、まるで乗っていた船が難破し、無人島にたった一人で流れ着いたような気分だろうな。 長門は続ける。 「だが、今回のループが、既に未来に開いている可能性はある」 じゃあ、なぜ、朝比奈さん(大)やパンジー野郎は現れない? 「おそらく、まだ未来が不安定。特に、時間遡行に技術の確立は、明日の仕事に負うところが大きいと思われる」 それが、亀を川に投げることってんだからなぁ……。未来って意外と安っぽくできてる。 やれやれ。 日曜日、今日の仕事は、亀を川に投げ込んで、眼鏡くんに渡すこと。 まあ、これも特筆すべきことはほとんどないと言っていいな。 ちょうど、一年前に、俺と朝比奈さんと眼鏡くんでした会話をちょうどそのまま、俺と長門と眼鏡くんで行う。一度亀を川で水泳させてから、ざぶざぶ取りにいって眼鏡くんに渡すのも同じだ。 亀は長門が用意してきた。小さくて可愛い亀だ。 すべてが終わって、亀を大事そうに持ち帰る少年、見送る俺と長門。 「……彼は、ちゃんと育てると思う?」 ああ、間違いないさ。 「責任感が強そうだし、しっかりしているじゃないか。大丈夫だよ」 長門は、ゆっくりと頷いた。 「……そう。なら、いい」 二人でぶらぶらと帰る。と、いつかのペットショップに行き当たった。 「そうだ、長門、どの種類の亀をあげたんだ?」 長門は、数種類の亀のケースの前をうろうろしていたが、やがて一つのケースの前に立ち止まると、中の亀を指差した。 「これ」 俺の体が小刻みに震えだした。もしや長門、わざとやっているんじゃないだろうな……。 店員が、ベンガルトラをペットにしたいと娘に言われた父親のような表情で、困ったように言う。 「お嬢ちゃん、これは、ちょっと飼うのは……手にあまると思うね。大きくなると大変だから……」 水槽の前にはられた紙に、学名が書いてある。 Chelydra serpentina――カミツキガメである。 二月十四日、バレンタイン・デー。 それは、もてない男子が、自分の遺伝子を呪い、果ては両親までも呪わんとする日であり、また、妙にそわそわと机の中をかき回したり、空っぽの下駄箱を開け閉めしてみたり、物欲しそうにクラスの女子を見詰める日である。 以上の観察サンプルは全て谷口だがな。 「……キョン、お前はいいぜ。朝比奈さんに長門有希、涼宮に朝倉涼子のチョコをもらえることが確定しているんだからな……くそっ、四つのチョコ、しかも、そのすべてが限りなく本命チョコかよ!」 まあ、妹とミヨキチに貰う分は、勘定に入れまい。それと―― おそらくは、もう一つあてがあるのだが……まあ、これは谷口に言っても仕方ないことだ。 「SOS団でチョコ配布のイベントをやる。よかったら来てくれ」 そう言って、男泣きに涙に暮れる谷口を、そっと慰めた。こう見えても、心のなかでは、結構やましさを感じているんだ。 節分の時は、散々長門に狙撃されていたからな。額にでっかく貼っていた絆創膏が、とれてよかった。 屋上に続く階段には、ごたごたと美術部あたりのガラクタが置いてある。それをよけながら、俺は屋上に続くドアの前に立つ。 屋上に出るドアには、いつもしっかりと鍵がかかっていて、普段、生徒は出ることが出来ないのだが、俺はなんなくドアを開けた。 この繰り返す一年間の最初の頃、長門に合鍵を作ってもらっていたからな。 今頃、SOS団主催で、バレンタインチョコの福引が校庭で行われているはずだ。俺はこっそりと会場を抜け出て、こうして屋上に出てきた。 少しだけ、一人になりたかったのさ。 ごろりとコンクリートの地面に寝転がる。いい天気だ。澄み切った青空に、雲の流れが速い。 別に、SOS団のメンバーに不満があったりするわけじゃない。本当に、心の底から、最高の連中だと思っているし、毎日が楽しい。 だが。 最近――長門が、無理に明るく振舞ってくれているのがよく分かる。あいつらしくない、どうにも下らないイタズラを仕掛けては、ふと俺の表情を、確かめるように見る。 そんなに、俺は落ち込んだ顔をしていたのだろうか? ひょっとしたらそうかも知れない。原因はなんだろう――などと考えるまでもない。 長門の仮説を聞いたからだ。 そして、その仮説が正しければ、きっと、あの世界で、ハルヒは―― 俺は、ループが起きる前のハルヒの姿を思い出す。 天上天下唯我独尊で、滅茶苦茶な暴走を繰り返し、SOS団を引っ張っていったハルヒ。 喧嘩した後に、ポニーテールにしかけた髪を、俺が入っていくと慌てて解いたハルヒ。 気丈で、傍若無人、横暴で、いつも周りに迷惑ばっかりかける。 だが―― 今の俺の頭に浮かぶのは、お前の泣いている顔なんだよ。 黄色いカチューシャをつけた短い髪を揺らして、その意外に小さい肩を震わせて、その大きな目を真っ赤にして、子供のように泣きじゃくる姿。 一度も見たことがないはずの光景だが、妙にくっきりと頭に浮かぶ。 もし、俺が。 最期の最期で。 お前をそんなふうに泣かしてしまったのだとしたら―― バーン、と音がして、ドアが吹き飛ぶように開く。 「見つけたっ!!」 突然、ハルヒが現れた。 「キョン!!探したわよ!いきなり姿を消すんだから、もう、油断もすきもあったもんじゃないわっ!!」 俺はムクリと起き上がった。ポニーテールを揺らすハルヒを見る。 「なんでここにいるって分かった?」 「部室も行ってみたわ。そこにもいなくて、あんたが行きそうなところはどこだろうって考えたの。すぐにピンときたわ。覚えてる?ここ――」 ああ。俺が長門に電話してたら、いきなりお前が現れた。「とりゃー!」とか掛け声をかけて、俺に足払いを喰らわせた。 「もう一年近いのか……早いね」 ふとハルヒは微笑むと、俺の横に腰を下ろした。 「ね、キョン、チョコレート、持ってきたから。涼子も有希もみくるちゃんも、みんな作ってきてるよ……ほんとは、みんなで渡すはずだったけど、ふふ、抜け駆け!」 ハルヒは、巨大なハート型のチョコレートを取り出した。包みを開けると、これまた白いチョコで、文字が書いてある。 『キョン愛してる 私と結婚しな』 よくまあ、チョコレートで愛とか結婚とか器用に書いたもんだ。それに、この脅すような命令文はなんだ? 「『しないと死刑だから』って書こうと思ったんだけど、スペースが足りなくなったのよ」 いや、どっちにしろ脅迫だな。やれやれ。 「……ハルヒ、一緒に食べようか。今、ここで」 「え、う、うん。……でも、その前に、感謝の言葉とか――あと、返事を聞かせて欲しいな、キョン」 ハルヒが、日本刀のように切れ味鋭い真剣な表情で俺を見つめてくる。 ……まいったね。 まあいいや。返事なんて決まってるだろ? 俺はハルヒを抱き寄せると、そっとキスした。 ハルヒは、ほんやりと赤い顔になっていたが、やがて、その顔が、まぶしく輝く100万ワットの笑顔に変わった。 なあ、ハルヒ。 俺が、一年前、お前を泣かしてしまったとしたら―― こっちの世界のハルヒを、思いっきり笑顔にさせてやることが、俺のやるべきことだと思わないか? 部室に戻って、朝比奈さん、長門、朝倉の作ったチョコを受け取り、古泉のチョコを丁重に断り、その日のSOS団の活動はお開きになった。 ちなみに、朝比奈さんのチョコには、一言、『脇役』と、どうどうたる楷書体で書かれていた。 「うう、長門さんがぁ……こう書けって……ぐすっ」 泣かないでください、朝比奈さん。長門はああ見えて、執念深いほうなんですよ。 帰り道、そっと古泉に話しかける。 「今夜、長門のアパートに来て欲しい……ハルヒと朝倉、朝比奈さんには内緒でな」 古泉は、ゆっくりと長門の方をみて、長門がこっくりと頷くのを見ると、真剣な表情になって聞いた。 「……決着、ですか?」 そうだ。 『すべてが終わったとき、あの公園で』 これで、すべてが終わるはずだ。 俺と長門、古泉は、いつかの公園で、やってくるべき人物を待っていた。 「僕はお会いするのは、初めてになりますね……はて、どんな方なのか……」 「たぶん、それが最初で最後になるぜ」 長門の立てた仮説が正しければ。 「来た……銃を持っている」 長門がすっと身構える。 片手に銃を携えて、暗闇の中から、そいつはゆっくりと現れた。 「やっぱりお前か……待っていたよ」 片手に銃を構えた未来人は、不愉快そうに鼻を鳴らした。一年前、俺と朝比奈さんが、パンジーの花壇から記憶媒体を見つけようとしたときに会った野郎だ。 未来人は、じっと銃から目を離さない長門を見て、吐き棄てるように言う。 「その宇宙人も一緒か……ふん、気に入らないな。待っていたのは、あんたじゃなくて僕の方だ。どうせ、あんたは意味も分からずに未来に踊らされているだけだろう」 いーや、違うね。 「俺のほうでも、ようやく全部がつながったところだ……。俺の貧弱な脳ではさっぱりだったが。一年間、長門が仮説を作っては壊しを繰り返してきたのさ」 一瞬、はっと驚いた表情になった未来人の顔が、苦痛に歪む。 「くそ……あんた……分かっているのか?あんたは核ミサイルの発射スイッチを握っているようなもんだ。あんたの指の動き一つで、ものすごい数の人間に影響がでるんだ」 そのとおりだ。 「だが、誰一人死なないさ。そうだろ」 未来人は、俺をじっと睨んでそのまま貝のように黙り込む。 「それに引き換え、お前がやったことはなんだ?……殺人だよ」 被害者が言うんだから間違いない。 「ひとつだけ答えろ……あっちのハルヒは泣いていただろ?」 「ふん……そうだ、わんわん泣き喚いたあげくの時空改変だったよ」 ハルヒの泣き顔が頭に浮かんだ。ざわざわと腹の中が煮えくり返る。目の前の未来人を思いっきりぶん殴ってやりたい衝動を、俺は必死に堪えた。 「……もういい。お前の面を見ているのはたくさんだ。もといた時代に帰れよ」 未来人は、奇妙なものを見るように、じっと俺を見つめた。そして、ちらりと長門に視線を向け、諦めたように、手にした銃を、投げやりにポイと投げ出す。 「もうあんたに会うこともないだろう。向こうに戻った僕に時間遡行の手段は残されていないからな……ふん、さよならだ」 未来人の姿は、ふっとかき消すように消滅した。 「……現在時空から消滅した」 長門が呟いた。 「説明していただきたいですね……どういうことだったんです?」 解説はお前の役目だろう古泉。俺はごめんだ。まあ、どうしてもってなら…… この人に聞くのが一番いいだろう。 「出てきてください、朝比奈さん」 はい、と答えて、ゆっくりと現れたのは、もちろん、朝比奈さん(大)だ。 朝比奈さん(大)は、静かに俺の方を見る。 「どこから……話しますか?」 もちろん決まっている。 「一年前、俺が、殺されたところからお願いします」 朝比奈さん(大)は、緊張した面持ちで、コクンと頷いた。 「最初に、言っておかなければならないことがあるの……」 朝比奈さん(大)は、軽く目を伏せた。 「未来は、確定していません。複数の未来が存在していて、それぞれの未来が、過去に干渉することで、自分の未来を守るために争っているの。 ……既定事項とは、ある未来に進むために必要な、そう、チェックポイントのようなものなんです。 しかし、その争いにも決着がつきました。時間遡行の技術を、私たちの勢力が完全に独占したんです……。 さっき、ここにいた未来人は、私たちの時代で地下活動を行っていた勢力の派遣したエージェントです。 過去に干渉することで勢力を伸ばそうとする、彼らの試みは失敗しました……あなたのおかげで。 もう、この時代に干渉することはないでしょう。そして、彼らがこの時代に干渉しない以上、私たちの任務もほぼ終わりです」 細かい時空の揺らぎが残るから、過去の私には、まだここで頑張ってもらうけど、と朝比奈さん(大)は付け加える。 古泉が朝比奈さん(大)に問いかけた。 「彼が殺された、とは一体どういうことですか?」 「彼ら未来人の、最後の賭けでした……この時間平面での工作で、私たちに常に遅れをとっていた彼らは、最後の手段として未来からの干渉を断ち切ることを決断したんです。 涼宮さんの能力を利用することで、です」 そう。 「古泉、お前の記憶にはないだろうが、一年前の夏に、ハルヒが時間のループを作っちまったことがあった。そのとき、未来からの干渉は完全に不可能になっていたんだ」 古泉が、納得したように言った。 「なるほど……涼宮さんがループを起こせば、朝比奈みくるはこの時空で孤立し、未来からの指示を受け取れなくなる……。 そのため、あなたのいる未来につながるための、既定事項を実行できなくなる、というわけですか」 古泉の言葉に、朝比奈さん(大)は頷く。 「彼らの誤算は、キョンくんが記憶をそのまま維持してしまったことです。ちょうど、殺されたときの記憶はあいまいだったみたいだけど……。 キョンくんが、一年前と同じ行動をとろうと努めてくれたことで、全ての既定事項が満たされました。空き缶も、亀もそうです。 結果として、時間のループ状態から、未来への接続が行われたために、私も、あの未来人も、この時空に来ることが出来たんです」 古泉は、大きな溜息を一つつくと、やれやれといったようすで肩をすくめる。 「まるまる一年間のタイム・ループですか……さすが涼宮さんですね。あなたが記憶を維持したのも、涼宮さんの意思だったのでしょう。……それとも、愛の力でしょうか?」 さあな。 「私は、これでお別れです。もう、この時間平面にくることはないでしょう……。これからも、過去の私をよろしくね。……さよなら、長門さん。さよなら、古泉くん。」 朝比奈さんは、ゆっくりと俺の方を向き、すっと手を俺の肩に置くと、軽く俺の頬に口付けした。 そして、チョコレートの入った包みを取り出す。 「ハッピー・バレンタイン。さようなら、キョンくん。……ほんとうにありがとう」 俺は朝比奈さん(大)の差し出したチョコを受け取った。 「……さよなら、朝比奈さん」 朝比奈さん(大)は、すっと涙を拭くと、にっこりと笑って―― 次の瞬間、消えた。 「現在時空からの、消滅を確認、だな……」 長門がコックリと頷く。 終わった。 ああ、ホントに終わったんだな。これで――全部が。 そう、奇妙な繰り返しの一年間。 ループ・タイムが。 「やれやれ」 ……………… 胸が焼けるように熱い。 いてぇ、マジで痛い。撃たれるのって、こんなに痛いのか。 朝倉涼子にナイフをぶっ刺されたときみたいだ。 口の中がヌルヌルする。気持ち悪い。これなんだろ、あったかいけど。 あれ?俺の血か? 「キョン……どうしたの……?」 ハルヒだ。なんつーか、タイミングが悪いな。 俺が撃たれたところにばったり入ってくるなんてな。 こんなところ見せたくなかった。 自分が死ぬところなんて。 「キョンッ!!こ、これ血なのっ!?あ、あんた、どうしたのよっ!!」 やべ、目が霞んできた。 ハルヒ、泣くなよ。 だからタイミング悪いって言ったんだ。笑顔をつくる余裕がねえんだよ。 ああ、でも。 最期に――お前の顔を見れたのは、タイミングが良かったのかな? 「キョン、キョン、ダメ……死んじゃダメぇっ!!いや、いやよっ!!」 泣くなよ、ハルヒ、お前は笑顔が似合うんだからよ。 いつもみたいな、すっげえいい笑顔を見せてくれよ。 意識が飛びそうだ。やべえな。これまでか。 「……キョン……キョン……お願い……死なないで……」 なに言ってんだよ、死ぬわけないだろ。 SOS団もやっと二年目じゃねえか。 一緒に部室にいこうぜ。 朝比奈さんのおいしいお茶を飲みたい。よわっちい古泉とゲームしたい。長門が静かに本を読んでいる姿を眺めていたい。 それに―― ハルヒ、お前のむちゃな命令が聞きたいよ。 いまなら何でも言うことを聞いてやるよ。 どんな無茶でも。 お前のことが好きだから。 ああ、俺はハルヒのことが好きなんだ。 ハルヒが呼んでいる、ハルヒの声がする。 わかってるよ、今行くさ。 今行くから。 ……………… さて、ここからは、また後日談となる。後日談もこれで最後だ。 新学期がはじまり、二年生になって、俺たちは新しいクラスになった。 古泉は相変わらずの九組だ。ま、これは変わりようがないな。 「やれやれ、僕だけ仲間はずれですか?」 そうだ――と言いたいところだが、もちろんそんなことはないさ。お前は、SOS団に必要不可欠なホモ・エスパーだからな。 「光栄です。では、また部室で」 エスパーは爽やかな笑顔を浮かべ、おどけて肩をすくめてみせた。 「ふえ、羨ましいです……あたしは、あと一年しかないから……」 おもいっきりその一年を楽しみましょう、朝比奈さん。 朝比奈さんは、にっこりと微笑む。 「はぁい」 ……それにしても、クラス替えだってのに、知ってる面子ばかりだな。 谷口、国木田のコンビとも、相変わらず同じクラスだ。 朝倉涼子が、こっちを向いて微笑んでいる。俺の視線に気がつくと、ちょっと顔を赤くして、小さく手を振った。 長門、新学期の初日から分厚い本に没頭しているな。クラスメイトの自己紹介ぐらい聞いてやれ。 そして―― 「ちょっと、ちょっと、キョン、あんたの番よ!ボーっとしてるんじゃないわよ、まったく」 やれやれ、ハルヒ、シャーペンで突っつくなよ。分かってるさ。 ゆっくりと俺は立ち上がった。 もう俺たちは二年生で、ほとんど互いに顔見知りなんだ。自己紹介なんていまさらだ。 だが、まあ。 自己紹介といったら、このセリフしかないだろ? 「俺のことは、キョンとでも呼んでくれ。……さて、俺はただの人間には興味がない」 俺は教室を見渡した。 谷口と国木田があきれた顔でこっちを見ている。 朝倉涼子は、可笑しそうにくすくすと笑っている。 長門有希も、ゆっくりと本から目を上げた。いつもの無表情に、少しだけ笑顔が混じっているように見える……気のせいか? 「この中に、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら……今すぐ俺のところに来い。そしたら――」 俺は、ゆっくりと後ろを振り返る。 満足そうに腕組みをした涼宮ハルヒの、100万ワットの笑顔。すごい、いい顔だ、可愛い。頭の後ろで、ポニーテールが気持ちよく揺れる。 後で――たぶん、ホームルームが終わったら、ハルヒの手を強引に引っ張って、いつかの屋上に続く階段に行こう。 長門の作ってくれた合鍵で屋上に出て、そこでハルヒに言おう。ハルヒのことを強く強く抱きしめながら。 ハルヒ、俺はお前のことが大好きだ、と。 本当に本当に、世界で一番好きだ。 お前に出会えてよかった。 これからも、ずっとずっとお前と一緒にいたい。 そう、言おう。 さて―― 俺は、すう、と息を吸い込んだ。 「SOS団に歓迎する!!以上」 おしまい 涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 ループ・タイム
https://w.atwiki.jp/alice-baseball/pages/135.html
【ハルヒの話・前提編】(3スレ目)781 名前:梱包済みのやる夫[sage] 投稿日:2018/04/16(月) 19 09 00 ID CFVsP+gG [2/2]せやかてやる夫世代卒業したら実質作品世界終了だろ?もしかしてハルヒニャル子世代やるん?やる夫の代で作品最終回なら実質1年ちょっとしかないからダイスに当たる確率考えたら無理じゃねって思ったんや783 名前: ◆C..Jf6TpFM [] 投稿日:2018/04/16(月) 19 11 16 ID GifVsX/y [3/79] 781そもそもの前提として1年秋からハルヒ使わざるを得ない。どうあがいてもアリス1人で先発出来ないから。【ハルヒの話・大阪桐生編】(3スレ目)4334 名前: ◆C..Jf6TpFM [] 投稿日:2018/04/30(月) 14 22 26 ID UBP7Ic0H [3/134]大阪桐生戦、ナチュラルに投手起用がアリス→ケイネス→キル夫と固定された理由は、「単にこれ以外の継投ではどうにもなんない」からです。監督の判断ダイスすら発生させてないのは、勝率を無駄に低くしない為。4336 名前: ◆C..Jf6TpFM [] 投稿日:2018/04/30(月) 14 27 35 ID UBP7Ic0H [4/134]ハルヒは球威こそあるんですがコントロール:Eの上に変化球もフォーク:Dだけなんで、現状10面ダイスのうち2~3個の面ではフォアボールを出します。で、これ「安打」とは別扱いです。なので大阪桐生の上位打者に対して打ち取るなら「毎打者ごとに2割引けやァ!」という羽目になります。勝ちの目があったほうがいいだろうなあと思ったので投手リレーは最初から固定。モブ投手はいますが大体2枚ぐらいケイネスを劣化させた感じです。4337 名前: ◆C..Jf6TpFM [] 投稿日:2018/04/30(月) 14 37 58 ID UBP7Ic0H [5/134]で、何故オートでハルヒが秋からの第2先発に数えられているかというと。キル夫の方が肘手術持ちなんで長い回持たないからです。なのでアリスがどんなに頑張っても毎回先発させる訳にいかないので、ハルヒを先発に回すという形になります。「先発=5~6回を必ず投げるではない」という先発ですが。4338 名前: ◆C..Jf6TpFM [] 投稿日:2018/04/30(月) 14 43 25 ID UBP7Ic0H [6/134]実際の所ハルヒのノーコンというリスクを飲むなら、「終盤僅差のリリーフ」よりも「序盤試合開始時点」の方がまだリスクは低いだろう、という要素もありますが。4339 名前: ◆C..Jf6TpFM [] 投稿日:2018/04/30(月) 14 44 41 ID UBP7Ic0H [7/134]Q.分かりづれえんだよ1行でまとめろA.ハルヒ秋から使うからマジがんばれ☆【ハルヒの話・秋から編】(3スレ目)7729 : ◆C..Jf6TpFM :2018/05/12(土) 12 49 15 ID oGR1PymU [67/121]まあその……後ハルヒに関して言うなら。コントロールよりもスタミナ先に上げた方がいいかな、多分。ノーコンはまだしもスタミナがEなのが一番辛いので……。7732 : ◆C..Jf6TpFM :2018/05/12(土) 12 54 51 ID oGR1PymU [68/121]ぶっちゃけハルヒの秋からの仕事は、 完璧なピッチングをする事ではなく、【アリスの負担を減らす為に第2先発としてイニングを稼ぐ】こと。なのでフォアボールいくらだそうが、押し出しデッドボール出そうが、スタミナが途中で尽きるよりはマシです。7733 : ◆C..Jf6TpFM :2018/05/12(土) 13 00 10 ID oGR1PymU [69/121]尚、キル夫にそれをやらせないのは最も計算出来るリリーフである、彼を先発に回すと一気に投手陣が貧弱になる上に、肘手術歴のある彼は長いイニング持たないんです。少なくとも高校時代のキル夫はそんな感じ。で、何故オートでハルヒが秋からの第2先発に数えられているかというと。キル夫の方が肘手術持ちなんで長い回持たないからです。なのでアリスがどんなに頑張っても毎回先発させる訳にいかないので、ハルヒを先発に回すという形になります。「先発=5~6回を必ず投げるではない」という先発ですが。【ハルヒの話・1年生の夏(コーチから)編】(3スレ目)8382 名前: ◆C..Jf6TpFM [] 投稿日:2018/05/14(月) 19 00 24 ID bM+p6New [13/124]実際の所これは前から言っている事だが、【投手ハルヒはこの夏の戦力としては数えてはいない】。これは【監督・コーチ・後入速等の主力選手も全員一致でそう判断している】。それでもベンチ入りはさせているあたり、球威の魅力が捨てきれないのは否定しない。【ハルヒの話・スタメンアリス編】(4スレ目)560 名前:梱包済みのやる夫[sage] 投稿日:2018/05/19(土) 16 33 54 ID stNiKpVE [4/24]そういやヨンパチ卒業したら実質守備B以上いなくなるんか……B以上のやる夫とアリスは基本捕手、投手固定だしケイネス先生もいなくなるから、アリスがほぼ先発になってしまう562 名前: ◆C..Jf6TpFM [] 投稿日:2018/05/19(土) 17 39 20 ID sHYaEkm9 [98/216]ああ、秋からむしろアリスの野手スタメンは増えるよ?だって格下相手にハルヒの先発機会作らないと第二先発いないもの。幾ら【アリスが能力あっても毎試合先発すると持たない】ってのは前から言ってる通りです。563 名前: ◆C..Jf6TpFM [] 投稿日:2018/05/19(土) 17 40 14 ID sHYaEkm9 [99/216]リスク承知の上でハルヒに実戦機会を与えないと、投手陣全体が苦しくなってしまうから。ここらへんはチーム事情ですな。567 名前: ◆C..Jf6TpFM [] 投稿日:2018/05/19(土) 17 47 24 ID sHYaEkm9 [101/216]ちなみにリリーフハルヒは、前に言ったようにクイックも牽制も出来ないので。アリス以上に走られまくる上にノーコンなので僅差の試合に向いてません。どれだけやる夫がフォロー出来るかにもよるけど。やだこの子、先発させるしかない……。【ハルヒの話・試合成長編】(4スレ目)1384 : ◆C..Jf6TpFM :2018/05/20(日) 21 22 37 ID BtZHEc9+ [144/206]まあ先に言っておくと、【甲子園で出番がなくとも、試合展開によっては影響を受けてハルヒが成長する場合もあります】。別に試合で活躍=成長というだけにはしてないつもりですのでご了承を。【ハルヒの話・起用法編】(4スレ目)1884 名前:梱包済みのやる夫[sage] 投稿日:2018/05/22(火) 21 43 30 ID g1WBNI8/ [1/2]現状だと先発出来るのがアリスしかいない(ハルヒが恐ろしいぐらいに伸びない+試合でまだ1球もストライクゾーン投げれてねえんじゃねえのかレベルのノーコン)からなぁ。マジで現状秋アリス→キル夫しか出来ず、3年夏も先発アリスしかいないって状態になってそう。1889 名前: ◆C..Jf6TpFM [] 投稿日:2018/05/22(火) 21 46 55 ID pVDxnL7M [50/71] 1884ハルヒさんの仕事は格下相手にイニング稼ぐ事なんで……。別に彼女を低く評価している訳でもなく、実際この役回りは大事です。【ハルヒの話・ではないけど秋から関係してきそう編】4548 :梱包済みのやる夫:2018/05/28(月) 22 16 31 ID sldwmaEYアリスは今回の試合何回まで投げるんだろうか6回終わったら交代?4549 : ◆C..Jf6TpFM :2018/05/28(月) 22 18 31 ID v/1iqukz 4548別に決めてないです。というか【行ける所まで行け】ってぐらい。データ上はアリス早期に変える理由はないし。4550 :梱包済みのやる夫:2018/05/28(月) 22 25 53 ID sldwmaEY 4549ありがとうございますアリスのコンディションに関係しないなら終盤か9回はキル夫に任せたいかな4551 : ◆C..Jf6TpFM :2018/05/28(月) 22 27 23 ID v/1iqukz 4550ああ、例えば。3回戦や4回戦あたりになった時に、アリスの疲労を考慮してケイネス先発とかはあるかもしれませんよ。ただまだこれ1回戦ですから。4552 : ◆C..Jf6TpFM :2018/05/28(月) 22 29 50 ID v/1iqukz流石に(精神的にはともかく)戦力的に一番頼りになるであろうアリスを、明和相手の1回戦は出来るだけ引っ張りたいというのがパワポケ監督の心情ではないかと思っています。【ハルヒの話・野手能力編】5433 名前:梱包済みのやる夫[sage] 投稿日:2018/05/30(水) 19 43 21 ID Ka0ZxyfG [1/5]どうせならハルヒ守備力とか攻撃系の野手ステータスも全部ダイス振れば良いのに学生時代投手やってる奴なんてだいたいそこらの部員よりかは優れた能力もってるもんやん5434 名前: ◆C..Jf6TpFM [] 投稿日:2018/05/30(水) 19 44 07 ID 9+ZsyGYj [62/67]1d65でいいなら認めましょう。それ以上はバランスの関係上無理ですが。5435 名前: ◆C..Jf6TpFM [] 投稿日:2018/05/30(水) 19 45 25 ID 9+ZsyGYj [63/67]ただしミートとパワーのみです。高い数値がパワーになります。【守備につけない】というのは試合経験の少ないハルヒの要素であるので。5436 名前:梱包済みのやる夫[sage] 投稿日:2018/05/30(水) 19 45 28 ID Ka0ZxyfG [2/5]どうせオールGって決めつけるぐらいなら1d65で全部振ってしまえば?使い道なくてもこういう緊急事態が今後ないとも限らん決まってたら野手練習で多少上げれたりもするやん緊急時用に5437 名前: ◆C..Jf6TpFM [] 投稿日:2018/05/30(水) 19 46 29 ID 9+ZsyGYj [64/67]普段練習させてないものをいきなり出来る方が無理がありますわ……。5438 名前:梱包済みのやる夫[sage] 投稿日:2018/05/30(水) 19 47 43 ID Ka0ZxyfG [3/5]ステータスがダイス振って決まってたら野手練習機会も出るかもしれんから今後こういう緊急時に助かるやんって言いたかったや5440 名前: ◆C..Jf6TpFM [] 投稿日:2018/05/30(水) 19 48 52 ID 9+ZsyGYj [65/67]あくまで緊急前後策であって。最初からアテにされちゃ困るからです。尚、守備能力自体は【作中時間の経過で改善します】。まだ今は時間が足りません。5442 名前:梱包済みのやる夫[sage] 投稿日:2018/05/30(水) 19 49 46 ID Ka0ZxyfG [4/5]いやまぁどうせ決まっても出番無いし練習機会も無いし無駄でしかなく振りたくないのなら別に振らんでもええんや、なんとなく思った事書いただけなんやすまん5445 名前: ◆C..Jf6TpFM [] 投稿日:2018/05/30(水) 19 51 00 ID 9+ZsyGYj [66/67]走力Cあれば一発限りの代走としては使えなくもないんですけど……。後、ハルヒに関しては秋からが本番って前から言ってますやん。これはぷにえも同じ。5448 名前: ◆C..Jf6TpFM [] 投稿日:2018/05/30(水) 19 54 40 ID 9+ZsyGYj [67/67]一応、選択肢を増やしたつもりではあります。で、正直彼女の設定的にこれがギリギリのレベル。ワンチャン打撃面は1d65でいいなら振りますけどどうします、ということです。いらないならこのシーン自体取り下げますが。【ハルヒの話・強さ編】8304 名前: ◆C..Jf6TpFM [] 投稿日:2018/06/04(月) 20 14 18 ID 1sHpmKOu [11/22]Q.ハルヒってもしかして強い?A.元々【素質はありますが時間が掛かるのがハルヒ】です。 これは初期ダイス振った段階でそもそも決まってました。 というのもハルヒの初期ダイスからして、最高球速:125+【1D15 15】(最低130)コントロール:【1D65 27】(最低30)スタミナ:【1D65 2】(最低30)変化球レベル:【2D4 4(3+1)】(高い方)球速とそれ以外のダイスが思いっきり差がありました。(ちなみに2度ぶり権は最低保証のない変化球に適用)ぶっちゃけ、「かなり高めのダイス出せば完全な天才肌コースも考えてました」が尖りすぎてるので却下。なんで、毎度言うように【彼女の出番秋以降から】です。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5955.html
いったい何が起こったんだろう。 あたしには分からなかった。 月曜朝のHR。あいつはいつもギリギリに近い時間で、けど少しだけゆとりある時間で教室に入ってくるはずなのに…… 岡部教諭が入ってきてもまだあいつは現れなかった。ただ岡部教諭だけは事態を飲み込んでいたみたい。 「えー、――くんだが家の都合で今日は欠席する」 少しだけざわつく教室。 この『――』部分はあいつの本名。と言っても、あたしは別の呼び方をしてるけど。 欠席……? この言葉に正直言って違和感を感じた。 だって体調不良なら『病欠』って言うはずだし、残念ながらあたしたちSOS団はインターハイとは無縁だから部活関連で休むなんてあり得ない。 家の都合にしたって、あたしは何も聞いていないし、一昨日もそんな話をあいつはしていなかった。 どういうこと? あたしはこのときはまだ事の重大さに気が付いていなかったし、もちろん漠然とも感じていなかった。 でもね。 結果から言えば、あたしは後々激しく後悔した。そしてその後悔は思ったより早くあたしを包み込んだものだから後悔が絶望に変わるまでの時間はそんなに長くはかからなかった―― 涼宮ハルヒの切望Ⅰ―side H― その日、あたしはどうにも前の席が気になった。 ん? もしキョンがいないから寂しかった、なんて想像したならお門違いよ。 そもそもあいつのことだから今日は欠席しても、明日、何食わぬ顔でひょっこり現れるだろうし、家の都合なら親戚に不幸があったのかも知んないし、ならそっとしておいてやる方が当然よね。 というか、今はあたし自身があいつの顔を見たいと思わない。 なら、今日のこれは好都合ってもんよ! 「あのぉ……涼宮さん……今日、キョンくんは……?」 「家の都合で欠席」 どこかおどおど問いかけてきたみくるちゃんに、棒読み口調で即答のあたし。 「家の都合、ですか?」 「そうよ。親戚に不幸でもあったんじゃない?」 第二の問いかけはいつもは目の前にキョンが居てボードゲームに勤しんでいる古泉くん。 もちろん、彼の問いにも予想を交えて即答。 「……まだ怒ってる?」 って、有希! 何そのいつもは無表情なのに今日ばかりは妙に哀れんだ瞳は! そもそも何でSOS団全員がヒラで雑用のあいつが気になるのよ! 「――SOS団全員ということは涼宮さんも気にしておられるということですか?」 じろ 「これは出過ぎたマネでした。ですが、一昨日、あんなことがあったというのに彼のことを心配なされている姿に僕は感動したものでして」 苦笑を浮かべて古泉くんが続けてきた。 ふむ。そう言われると悪い気はしないわね。 え? 土曜に何があったかって? んなこと聞いてどうするのよ! また蒸し返して怒りがこみ上げてくるだけだわ! まったくキョンと来たら、集合場所に一番遅れるだけならともかく、あたしに無断で他の女と一緒に駅に来るなんてどういうつもりかしら! しかもよ! 「仕方ないだろ。今日一日預かることになったんだ。けどまさか他人の家に一人で留守番させるわけにはいかないだろ。今日だけ同伴で頼むぜ」なんて言うのはまあ器量の広い団長なんだから認めてあげないこともないけど、それにしたって何であんなに仲睦じいわけ!? 「あのー涼宮さん?」 「何よ!」 「いえ……なんでもありません……」 みくるちゃんが何か聞いてきたけどどうでもいいわ! む~~~~~~~~思い出すだけで腹が立つ! 「涼宮さん、彼の言葉を信じてあげてもよろしいのではないかと」 「どういう意味よ! まさか古泉くんもキョンのあんなたわごと信じてるわけ!」 「いやまあ……確かに僕も初めて本人を目にしては、とても信じられるものではありませんでしたが……」 古泉くんがごにょごにょ引き下がる。 キョンが連れてきた女の子がどんな子ですかって? ふん! キョンは小学六年生、もうすぐ十二歳の十一歳とか言ってたけど絶対嘘よ! 可愛らしいのはまあおいとくとしても、あんな発育のいい小学六年生がいるわけないじゃない! はっきり言って、あ……じゃなくて! 有希といい勝負なんだから! あ、何で今言い直したんだって思わなかった? ……否定はしないわ……だって、それくらい発育良かったし…… って、何暗くなってんのよあたしは!? などと思いつつ、今日は苛立ったままで一日が過ぎてしまった。 うん。寝る前に牛乳をたくさん飲もう。たぶん、カルシウムが足りないんだ今のあたしは。 間違ってもあの女の子に負けないためじゃないわよ。 そこんとこ誤解しないように! 涼宮ハルヒの切望Ⅱ―side H― 涼宮ハルヒの切望Ⅰ―side K―
https://w.atwiki.jp/1919victorique/pages/160.html
初期老害が出揃った2009/09/06(日)の練習にて起こったと言われている事件。 その日の参加者である照井、ソルト、今岡、林の誰かが犯人だと思われる(複数人の可能性も)。 事件の詳細については以下など諸説あり、真相は不明のままである。 自己紹介でソルトがハルヒの話をした 自己紹介で今岡が「長門犯したい」と言った 照井とソルトがハルヒの話をした 悪いのは林 照井が東中出身!照井優一郎です!と名乗った なお、この事件の真犯人が初代アニメ先生(照井)となる模様。 ハルヒ事件の犯人は 順位 選択肢 得票数 得票率 投票 1 ソルト 2 (100%) 2 今岡 0 (0%) 3 林 0 (0%) 4 照井 0 (0%) その他 投票総数 2